戦場のメリークリスマス
ドーン!ギャー!・・・・
あちこちで自爆テロや爆撃が起こり、爆音がなり響く。
「このアメ公、とっとと帰りやがれ。」
男も女も、子供も大人も、アメリカ兵に罵声を浴びせかけ、石を投げつける者も少なくない。売り言葉に買い言葉、つい、住民に発砲したくなるが、冷静を装う。しかし、なかには本当に発砲してしまう者もいる。あるいは、疑心暗鬼のため、身を守るため、普通の国民に銃を向けてしまう。テロリストとの区別がつかないのだ。
とにもかくにも、いつもの張り詰めた任務を終えると、兵士達は宿営地に戻ってくる。
「今日も、なんとか生き残れた。ヤレヤレだ。」
「現地の奴らが言っているように、本当はオレたちだって帰りたいんだ。」
「そういえば、今日はクリスマスイブだ。本国では皆、クリスマスを祝っているんだろうな。家族や友人たち、彼女は今ごろ、どうしているだろう。」
「シャンパンをパンパン抜いたり、クラッカーを鳴らしているんだろうな。」
「こっちじゃもっとハデに、銃でドンパチパンパン、爆弾を破裂させているじゃないか。」
「悪い冗談はやめろよ。」
「すまん。」
・ ・・・・・・・・
「せめてクリスマスのときぐらい、平穏に過ごしたいなあ。連中もクリスマスのときくらいおとなしくしてりゃいいものを。」
「この国じゃ、クリスマスなんて関係ないのさ。それはそうと、俺たちもささやかながら、クリスマスを祝おうじゃないか。」
「そうだな。ちょうど、クリスマスソングが入っているテープがある。オレは、それを用意する。」
「オレはツリーを用意するよ。」
彼らは用意をし、あるロックグループが歌っているクリスマスソングに聴き入る。
国は国に、民族は民族に対して立ち上がる
どうして人々は憎しみあい、争うのか
皆、同じこの地球上に住む人間じゃないか
肌の色なんて、関係ない
愛し合おう、わけ隔てなく
争うのはやめて、平和を祈ろう
クリスマスのこの日に
「本当にそうだな。」
「やめたいさ。こんなこと。でも、本当に任務を放棄することができるか。」
「そうさ。それに、確かにこんな状況じゃ、現地の奴等に対して憎しみの感情を抱かざるをえないが、元々、彼らに対して憎しみがあったわけじゃないんだ。」
「彼らだって、元々、俺たちを嫌っていたわけじゃないと思うんだ。」
「では一体なぜ。」
「独裁者やテロリストが悪いんだ。この戦争には大義があるんだ。」
自分に言い聞かせるように言った。そう思わなければ、やりきれなかったからだ。
「自分は安全な所にいて、綺麗事ばかり唱える奴が多すぎる。」
誰かが、はき捨てるように言った。
沈黙が続いたが、それまでのように歌詞がすんなりと心に入っていかない。美しいメッセージだが、何か的外れのような気がしたのだ。
彼らは、ツリーの方に目をやった。それは、この砂漠の地に茂っていた潅木(ブッシュ)に飾りつけをしたものだった。それは一見美しく飾り付けられているようにみえたが、しかし、鈴や星等の代わりに、銀色の銃弾や缶などで飾り付けられたものだった。
「見ろ、きれいにできたじゃないか。」
「本物のツリーのように金をかけてはいないがな。」
「いや、一番、金がかかっているさ。銃弾なんか高いんだからな。」