10年前の記事でも触れたが、映画「ゾンビ」の究極の伝説に今一度挑戦しよう。
ファンなら誰もが夢に見る、ラフカット版と呼ばれる真の全長版の全貌を解析する。
まず、ラフカット版の定義について説明する。
ロメロ監督は本作を撮影した直後、ネガフィルムを繋いで最長のバージョンを作成した。
それは台詞、効果音、BGMまで全て整えられ、1本の映画として完成している。
これをワークプリントだと称する者もいるようだが、ポジを使ってネガ編集用にテストする素材を指すのだから、やはりラフカット版は最初の完成形だと考える。
また、ラフカット版は本作のメイキング作品「ドキュメント・オブ・ザ・デッド」の中で部分使用されており、この時点で確認できる範囲に限ってもロメロの編集は長さは違えどもほぼ127分版と変わらない。
これも、ラフカット版がワークプリントとは呼べないという根拠のひとつだ。
フィルムは映像マスターネガがあり、磁気テープで作成した音声からサウンドネガを作成。
この二つをミックスしてマスターポジが生まれる。
以降、再度デュープネガを複製し、それから上映用プリントが量産されるのだ。
マスターネガは、この世に1本しか存在し得ない。
ロメロがアルジェント側に送ったのは、おそらくマスターポジだ。
そしてこれは想像だが、音楽を入れ替えられるようにトラック分けされている磁気録音の素材も一緒に送られたのだろう。
磁気素材の特性の一つに、音移りというものがある。
経年変化や録音機器が違ったりすると、他のトラックに音が重なったり消しきれずに残ったりする。
だから、アルジェント監修版の音声の一部にロメロ版の音が存在しているのだ。
ロメロ自身はその後、カンヌ映画祭に出品する為ラフカット版のネガを切り詰める。
この時点でのマスターネガを複製しておいたおかげで、今もディレクターズカット版として139分のバージョンが存在するのだ。
更に劇場公開時に127分までカットされたので、マスターネガは今やその形になっている。
一方、アルジェント側はラフカット版を119分に調整し、音楽や効果音を全て入れ替えた。
ラフカット版が現存しているかどうかは、アルジェント側が編集前にデュープネガを作ったかどうかも重要なポイントだ。
さて、前置きはこれくらいにして、各場面の解析に入ろう。
映画「ゾンビ」の各バージョンには映像の過不足がそれぞれあるが、今回はシナリオにありながら映像として存在を確認できない部分を中心に解説する。
なお、撮影された可能性の判断は、あくまで僕の個人的見解だ。
①冒頭のテレビ局の場面
フランがチャーリーの所へ行き、緊急避難所のリストを受け取る。
この後、米版も伊版も同じ編集でモブキャラの混乱映像が使われている。
しかしシナリオでは、フランは階段を上って放送調整室へ向かう。
入口には警備員がおり、彼女を簡単には通さない。
フランが局員バッジを紛失しているからだ。
そこでの押し問答が、シナリオに書かれている。
同僚の助けで何とか通してもらい、以下の場面に繋がる。
フランを止めるのは、この警備員だ。
米版・伊版のどちらからも、痕跡の見られない場面。
しかし後でスタッフが逃亡する時、この警備員がスルーする演出がある以上は撮影されたと思われる。
現場の秩序を守るはずの警備が逆に混乱を招くという、シナリオでは意味のある部分。
しかし、時間短縮で真っ先に切られるのがこの場面だろう。
②SWAT部隊のアパート突入場面
狂った隊員・ウーリーの凶弾を逃れたジェームズが、階段の駆け降りる。
本編では、彼のその後は描かれない。
しかしスチール写真では、流血して倒れている。
別の隊員が、助け起こそうとしているようにも見える。
ここも米版・伊版とも同じ編集で、確認出来ない映像だ。
シナリオでも、ウーリーは彼を撃ち倒した後でドアを蹴り開けると書かれている。
場面写真がある以上、撮影されたことは間違いないだろう。
だが、映像のテンポを生かす為ラフカット版でも使われなかった可能性もある。
撮影された素材が、たとえラフカット版と言えどもすべて使われているとは僕は思わない。
後で出てくるが、そのような部分は数多く存在する。
これらの映像は、ラフカット版のみで確認出来る部分だ。
米版では最初のミゲル登場場面はこの手前で切られ、次のものは削除された。
伊版ではミゲル登場は丸々切られ、次のものは途中から使用。
ロメロは139分に編集する時点で、細かな修正をほぼ完了している。
洗濯場に逃げ込んだロジャーが、ピーターと出会う場面。
ピーターが最初に言うセリフは、シナリオではこう書かれている。
YOU‘RE NOT ALONE BROTHER
しかし、映像ではこう変更された。
YOU AIN‘T HERE JUST BY YOURSELF BOY
「兄弟」という表現が、「小僧」という敵意ある言葉に変わっている。
いきなりマウントを取りにかかる、ピーターw。
これじゃ、ロジャーが銃を構えるのも無理もないww。
現れた牧師との会話は、米版・伊版とも過不足がある。
が、どちらにも存在しないのが以下の部分だ。
ここで映像が切り替わるが、シナリオではロジャーと牧師の会話が存在する。
生存者を集めたエリアに案内しようとするが、牧師は断る。
なぜなら、妹はもう死んでいるからだ。
この場面は「ドキュメント・オブ・ザ・デッド」でのラフカット版に丸々使われており、そこにすら存在しない。
撮影時に飛ばしたのか、編集時に使わなかったのかが謎の部分だ。
SWAT部隊がゴミ集積所をこじ開けると、ゾンビの大群が飛び出してくる場面。
このスチール写真で見ると、奥に顔を青く塗っていない白人が見えないか?
これがカメラを持ったマイケル・ゴーニックだとしたなら、明らかにこの素材フィルムは使用されていない。
完成品の編集は完璧であり、ゾンビ側からの視点でのこのショットを挿入する意味がない。
最初の仮編集の時点でも、ボツにされた映像素材だろう。
この後、SWAT部隊による掃討場面が書かれている。
混乱した現場に、ロジャーとピーターも合流。
襲い来るゾンビを倒しながら、地下に下りて来る。
映像だといきなりここへ飛ぶので、二人が来た経路が分からない。
しかし、映画の演出を考えると全てを見せれば良いというものではない。
この後ピーターが銃を撃ちながら涙を流す場面の、邪魔になりはしないか?
僕は、この部分は撮影されていない可能性が高いと考える。
その根拠の一つが、先の映像でゾンビたちが階段を上がる場面だ。
伊版に注目してほしい。
カットの最後、ゾンビがカメラに当たってブレるのだ。
もしラフカット版でシナリオ通りに編集していたなら、ロメロは最初から綺麗に繋いだと思うのだ。
そして、この映像をこんなに長くは使わないだろう。
このスチール写真、昔は僕もこれこそがラフカット版に存在する証拠ではないかと思った事がある。
ところが背景をよく見ると、ここはショッピングモール内。
ただの宣材写真だった。
涙を流すピーターに変わり、遺体を処理するロジャー。
彼の問いかけも、シナリオでは更に長い。
撮影されたかもしれないが、やはりここもラフカット版の時点で削除されたように思う。
③派出所での場面
アルジェントの編集版では、丸ごと削除された偽警官の場面。
米国公開版でも、かなり切られている。
ここでの一連は、ディレクターズカット版にほぼ完全な形で存在していた。
シナリオにのみ存在するのが、「もし死ぬような事になったら、それはお前の責任だぜ」とフランに向けて言う彼のセリフ。
テンポを重視し、ラフカット版の後で削除されたのかもしれない。
彼のシナリオでのセリフは、以下の通り。
HEY、THAT'S A BLACK AND WHITE!
切られてはいないが、現場で修正された。
④最初の脱出場面
ここでの四人のセリフは、全てシナリオに存在する。
逆に言えば、それ以外のセリフが映像に存在しない。
このスチール写真は、普通に見れば場面写真にしか見えない。
しかし、フランがスティーブンに手を置いて話しかけたりする余地が存在しないのだ。
よって、これは未使用映像ではなく宣材写真だろう。
尻もちをついたスティーブンを助け起こし、険悪なまま歩き去るピーター。
この映像はディレクターズカット版にしか残されていないが、シナリオでは更に先がある。
全員が無言でヘリに乗り込み、離陸する。
この計器映像に、ディレクターズカット版のみ離陸前のヘリの音が被る。
こういう場合、あったはずの映像を削除した名残だったりする。
しかし、疑問点も。
シナリオでは、この後の会話は離陸前として書かれている。
が、完成品では夜間飛行中。
それを差し引くと、やはり離陸映像は存在しない可能性が高いのだろうか。
このスティーブンのセリフは、シナリオではピッツバーグとなっていた。
フランのセリフだが、シナリオを見れば一目瞭然。
明らかに、途中を飛ばしている。
このように、撮影時に削除しているセリフも結構あるのだ。
上のスチール写真は、宣材用だ。
当時の上映パンフレット掲載時、誰もが一度は未使用場面だと信じ込んだのではなかろうか?
このような紛らわしさが、この映画の魅力の一つでもあったろう。
今となってはね!(笑)。



































































