何度見送っても、別れは苦手
息子が、自分のところへ帰って行った。
少し離れたところに住んでいるから、会えるのは年に2回ほど。
息子が帰ったあとの部屋は、静かで、
空っぽ。
さっきまで息子がいた部屋なのに、もう誰もいない。
シーツを外して、掃除機をかけて、
あちこち拭きながら、部屋を元に戻していく。
いつものこと。
もう十年近く、こんなことを繰り返している。
それなのに――
息子を送って家に戻り、
誰もいなくなった息子の部屋を見ると、
急に、寂しさが押し寄せてくる。
鼻の奥がツンとして、目の奥が熱くなる。
毎日、息子の好きな料理を作ったり、
あれこれ世話を焼いたりして、
きっと疲れているはずなのに、
帰ってしまうと、やっぱり寂しい。
実際、私も結婚してから、母と離れて暮らしていた。
母に会えるのも、年に一度か二度。
今の私と息子のように、
会いたい時にすぐ会える距離ではなかった。
あの頃から、
母と別れる時は、とても寂しかった。
今になって思う。
私は昔から、別れが苦手だったんだと思う。
何年経っても、
この「別れ」には、どうしても慣れない。
特に、自分が弱っている時はダメだ。
寂しいなんて言わないように、
涙をこらえる。
子どもには子どもの人生がある。
元気で、自分の人生を歩いてくれたら、それでいい。
頭ではちゃんと分かっている。
それでも、いなくなったあとの部屋を見ると、
心だけが取り残されたような気持ちになる。
私は、別れが苦手。
嫌い。
帰っていく息子の背中を見ながら、
「元気でね」と笑って送り出した。
でも、本当は、
「将来、もうちょっと近くに住んでね」
と、小さい声で言った。