GQブログ再掲 ついに世界のSEIKOの時代到来か? | 動産コンサル George Oye Rae (大江丈治)のブログ

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ラグジュアリーブランド、オークションなどの「動産」にまつわるコンサルタント会社ウイリアム・レイ&カンパニー代表です。
時計・ジュエリー・アート、国際オークションなど、生活とライスタイルも豊かにするアイテムを中心に、お話を書いて参ります。

2020年9月掲載

 

著者の怠慢の結果は、いつもスローなアップなのですが、

今回は素晴らしいニュースが重なったので

「速報!」としてこのブログをお伝えしたいと思います。

 

セイコー = " SEIKO " が

世界では、とんでもない事になりそうなのです。

 

 

私はラグジュアリーブランドのコンサルタントなどする傍ら、

ボナムズ = “ Bonhams ”と言う1793年ロンドンに創業したオークションハウスで

時計部門のSpecialistも拝命しています。

 

 

"Christie’s"や、私も以前勤めていた"Sotheby’s"を加え

「3大老舗総合オークションハウス」ですが、

Bonhamsはその二社に比べ、取り扱いアイテムの部門数はほぼ変わらず、

しかし規模は半分以下で、専門家の「密度」の濃いオークションハウスです。

 

オークションハウス毎にそれぞれ得意な分野、会社のカラーがありますが、

ボナムズの時計部門はと言うと、ヴィンテージウオッチと、

あまり偏屈でないコレクタブルズが得意。

専門家のクセと顧客によってカラーが決まります。

弊社の場合は、私が世界一と考えるオークショニアでスペシャリスト

ティム・ボーン = “Tim Bourne”

のカラーが色濃く反映します。

 

 

彼が率いるボナムズ時計部門の香港オフィスは、他のオークションハウスに先立ち、

何と「SEIKOウオッチ」だけのオークションを8月に開催しました。

 

 

「Making Waves : SEIKO   A Private Collection of Japanese Wristwatches / Part 1」

と銘打ったセールです。

 

特筆すべきは、大手国際オークションハウスでは世界初のJapanese Made の腕時計のみ、しかもSEIKOだけにフォーカスしたセールだと言う事。

 

「時計さえ集まればそんな事簡単だろ」

 

と思われるでしょうが、そんなに事はシンプルではありません。

オークションは様々なコストがかかる為、どんなセールでも「予算」が組まれて、

落札総金額、落札率まで計画が立てられ執行される「ビジネス」です。

 

商品は出品者より預ったものですから、極力「売り切る」事が重要で、

その為、いくらカタログの華になろうが、売れないモノは扱えません。

通常の時計オークションの場合、落札率は75〜80%程度が一般的ですが、

このセールの落札率はなんと『96%!!』

 

 

コロナ禍のご時世、カタログも印刷されずWebのみ、下見会も無しの

オンライン開催と言う悪条件下。

新旧のアイテム、プライスレンジも幅広く、目玉商品もそれほど多くない中で

予想を遥かに超える結果となりました。

 

 

 

もう一つ予想外だったのは、入札のほとんどが日本以外の国だった事です。

SEIKOヴィンテージの日本での人気は安定しています。

理由としては「まだ安価」「バリエーションが豊富」などありますが、

最近の傾向として、海外ブランドを一通り楽しんだファンが、

日本製腕時計に回帰している様子も伺えます。

 

これは現行のSEIKOがグランドセイコー筆頭に、クレドールやセイコープレザージュなど、海外トップブランドと対等に戦える商品をマーケット毎に次々に市場に投入していて、それがブランド再評価に繋がっているのではないかと考察しています。

現行品のクオリティーが上がると、次にヴィンテージが見直されるのは自然な流れですが、いざ振り返ると、かつての製品に素晴らしいものが多かった事に改めて気が付くのです。

 

このオークションでの入札がほぼ国外という結果は、

これはヴィンテージSEIKOの世界では既に海外が熱く、

日本以上にコレクター達が競っている事実を反映しています。

 

完全に日本はVintage Made In Japan Watchのマーケットにおいて、

世界から出遅れています。周回遅れかもしれません。

この「Making Waves : SEIKO」の成功はそのシグナルです。

 

オークションに続き、びっくりするニュースが飛び込んで来ました。

それはグランドセイコー60周年と言う節目に登場した

「 T0= “ ティー・ゼロ ” コンスタントフォース・トゥールビヨン 」

の発表です。

 

 

既にSEIKOではトゥールビヨンは、クレドール = ” Credor ”

ブランドで商品化されています。

エボーシュを使わないトゥールビヨンをカタログ化しているだけでも、

マニュファクチュールとして十分凄い事ですが、

この" T0 "はコンスタントフォースを組み込んだ,

言わばトゥールビヨンの頂点となる「上がり」のシステム。

 

 

詳しいことは広田ハカセが本誌にきっと寄稿すると思うので割愛しますが、

コンスタントフォースとは機械式時計の動力

「ゼンマイの力=トルク」を一定にする方法で、

" T0 "はそのシステムをトゥールビヨンと同軸で一体化し組み込んだ

世界初のムーブメントなのです。

コンスタントフォース機構は、限られた技術系トップのブランドが 

僅かに製品化しているだけで、まだ一般的には知られていません。

 

 

SEIKOはこのムーブメントをプロトタイプとしていますが、

写真を見る限り仕上げなどの完成度が極めて高く、

また基幹パーツとなる歯車もMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)

と呼ぶ独自の技術で作っています。

 

 

このMEMSは量産向きの技術ですから、もう相当それを意識していると思われます。

 

ミニッツ・リピーターやソヌリのハイ・コンプリケーションを

クレドールブランドで発表したのに対し、

コンスタントフォース・トゥールビヨンをグランドセイコーブランドで発表した事は、

ギミックとしてのトゥールビヨンではなく、

SEIKOはトゥールビヨンに最高精度を求めると言う意思を感じるのです。

 

今までもかなりの部分でスイス時計と肩を並べていましたが、ついに抜きん出ました!

 

ヴィンテージ から最先端まで、

とにかくSEIKOは今最もホットな時計ブランドになったと言っても良いでしょう。

日本人として本当に喜ばしい限りです。

SEIKOに限らず、今 ” Made in Japan ” は世界で半ば熱狂的に支持されつつあります。

 

知ってますか?

時計だけではありません。

 

例えば、ウイスキーだって

サントリーが今年2月に募集を開始し、6月に100本抽選販売されたばかりの

” シングルモルト山崎55年 ” は

約8000万円のプライスで落札されました。

 

 

これは世界の「評価」なのです。

 

物づくりニッポンの復活です!!

我々自身がこの流れに乗り遅れない様にしなければ!