2020年8月掲載
例年なら、旧S I H Hとして知られていた「ウオッチ&ワンダー ジュネーブ」
(WATCHES & WONDERS GENEVA)が4月26日から29日に、
バーゼルワールド(BASELWORLD) が4月30日から5月5日まで開催予定でした。
GQ本誌は時計エディターの神谷さん、広田ハカセが現地からリポートしていたはず。
しかし、世界中に蔓延してしまった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が
どちらも中止に追い込みました。
ウオッチ&ワンダー ジュネーブこそ来年は開催される模様ですが、
バーゼルワールドに至っては、ウイルスとは別な運営上の問題も加わり、来年も中止に。スイス、バーゼル市で100年続いたこのイベントは、今後ほぼ消滅だと言うのです。まだ紆余曲折はありそうですが、いずれにしても良いニュースではないのです。
とにかく今年開催された世界中のメディアが参加した新作発表イベントは、
1月にドバイで行われた
「L V M Hウオッチウイークドバイ2020」
だけと言う事態で寂しい限りとなっています。
ただ、直近の情報ではWATCHES & WONDERS ”SHANGHAI ”が
「9月9日から13日に上海にて行われる」予定であると聞きました。
ようやく世界の時計界も動き始めた?と思いたいところです。
そんな状況下では、各社は新作発表をそのまま翌年まで延期するか、
Webでの発表が殆どです。
しかし、どんなに画像が優れていても現物を見て触らないと正直わかりません。
時計・ジュエリーの類は五感で感じるものですから。
そんな窮地に追い込まれた中でも、なんとか新作時計をお披露目したいと頑張っていたのが「カルティエ = Cartier」です。
さすがラグジュアリーブランドの尤。
ソーシャルディスタンスなどの感染防止策で、
一入場者数を限るなどの策を講じられた上で、
“ Salon de I’Horologerie Cartier 2020”
が7月1日、恒例となった皇居前パレスホテルで開催されました。
今回カルティエの新作は、
今やお得意のコンプリケーテッドウオッチこそなかったですが、
ブランドを代表するモデルのエクステンドや、アーカイブからの復活など、
実はとても濃かったものでした。そう、シグニチャ・モデル達でした。
我らが鈴木編集長もマスクにキャップに、完全防備(?)の上で、
じっくり説明を聞きながら新作群に大変興味を持ってらっしゃいましたね。
全部は紹介しきれませんが、私からお気に入りを。
まずはお財布さえ許せば、今すぐ「欲しい!!」
“タンク アシンメトリック=TANK ASYMÉTRIQUE”
コロナの影響で、実物がスケルトンwith ダイヤの一点しか間に
合わなかったのが残念でしたが、久々のゾクッと肌が反応したモデルでした。
タンク アシンメトリックのオリジナルは1936年に生まれていて、
その後も何度かスタイルを殆ど変えずに再生産されています。
世界ではコレクターズアイテムとされ、国際オークションでも人気ですが、
しかし、何故だか日本ではあまり知られる事がなかったモデルです。
カルティエの「異形ケース」であるクラッシュ、アシンメトリックなどは、
カルティエコレクターでなくとも、ファッションセンスの高いセレブに
人気なのです。
ケース形状が特殊でも、カルティエの時計としてスタイルが完全に踏襲されているが故に、アイキャッチな上に実用的。
「異形ケース」は、カルティエのアイコニックウオッチとして君臨します。
この色っぽさですから。
昨年、香港マンダリンオリエンタルホテル内のハイジュエリーばかり扱う宝石店入った時、オーナーが誇らしげに着用していたのがピンクゴールドケースのアシンメトリックでした。100万US$アップの宝石を普通に扱うオーナーの一番のお気に入り時計が、普通の金無垢の手巻き、しかし「タンク アシンメトリック」。
D,IFの大粒やイエローダイヤにだって存在感で全く負けていませんでした。
今回は将来のオークションアイテムが久々手に入るチャンス。
イエロー、ピンクゴールド、そしてプラチナモデルが用意されていますが、全て限定です。しかし、もし予算が許すのであれば私からは「強く強く」お勧めします。
一桁上のプライスの時計にだって対抗できるだけの耐費用効果はあるのです。
そこまで冒険できない方には、これも「待望」のモデル、
“サントス デュモンXL = SANTOS-DUMONT XL WATCH”
もオススメです。
これは今までカルティエの定番の中でも、最もお買い得感のあった昨年の新作、
のサイズアップバージョンで、そのサイズからXLと呼ばれます。
XLと言っても肥大せず、薄型に仕上げている故にバランスの良いラージサイズです。
これはサイズアップしただけでなく、「手巻き」式ムーブメントを搭載しています。
しかもカルティエが属するリシュモングループの名ムーブメントである Piaget Cal.430P のカルティエ 版であるCal.430MCという「高級薄型ムーブメント」であるという事。
クオーツの使い勝手の良さも捨てがたいですが、430MC のあの巻味も楽しめるのだから、手巻き機械式をわざわざ選択するのは「大いにあり」です。
クラウンもスティールとコンビモデルは従来のブルースピネルですが、
ゴールドモデルはサファイアカボションで、ディテールの抜かりなし。
限定プラチナケースの
“ラ ドゥモワゼル=LA DEMOISELLE”
はルビーカボションのクラウン。
カルティエの流儀でプラチナケースにはこの組み合わせになります。
カルティエの時計はシンプルで決して華美では無いので、
プラチナケースでも一見スティールケースに見えるのですが、
こんな小さなパーツで違いが分かる「ツウ」なポイントです。
そして従来クオーツのみだったLMサイズにも
Cal.430MC搭載のリミテッドモデル3種も登場しました。
プラチナケースの "ル ブラジル = LE BRÉSIL"
イエローゴールドケースの"ラ バラドゥーズ = LA BALADEUSE"
イエローゴールドとステールのコンビ" n°14 ビス = N°14 BIS"
個人的にはXLよりこのサイズが好みです。
また、限定モデルにしてはかなりリーズナブルなプライスです。
5月より販売されているので、もしまだ見つけられたらラッキー、
すぐ入手すべきです。
私がカルティエファン(隠れファン?)になるきっかけの時計が、
「パシャ」と呼ばれる、丸型シリンダーケースのモデルでした。
初めてのスイス出張が第3回SIHHでした。当然初めてのジュネーブ。
ジュネーブの街中で金髪の老齢な女性がパシャのゴールドモデルを着用していて、
日本で見た事ない着けこなしのカッコよさ。
覚えています、イエローゴールドにグリーンのアリゲーターストラップ、
(本当はお勧めしないけれど)ゴールドチェーンのアクセサリーとの重ね付け。
本来男物の防水時計を、傷だらけにしながらお洒落に日常使いしている姿に、
私は衝撃を受けました。
これがヨーロッパか!と。
それ以来カルティエ「パシャ」は憧れの時計となりました。
新作の“パシャ ドゥ カルティエ = PASHA DE CARTIER”
何世代かリ・モデルしながら、今回は久々の全面改良がされています。
この改良=アップグレードはデザインだけでなく
自動巻マニュファクチュールムーブCal.1847 MCを採用した事。
このムーブは帯磁性を大幅にアップした実力機。
ストラップ、ブレスレット交換はカルティエの画期的な発明である
インタチェンジャブルシステムを採用。
これでフォーマルにもビジネスにも一本で対応可ですから、
今流行のラグジュアリースポーツモデルの中でも元祖と言えるパシャは
汎用性の高い実用時計して素晴らしい仕上がりになっています。
かつて廉価なパシャには、リューズカバーはスティールになっていましたが、
再びスピネルカボションが付加され、ゴージャス感が戻りました。
しかもカバー内のリアルなクラウンにもカボション仕様のこだわり様。
ここは普段見えない部分にも関わらずです。
ケースは41、35ミリの2サイズが用意されており、
またケース素材もスティール、ピンクゴールド、イエローゴールド、パヴェモデルまで
SKUも一気に用意されています。
一押しはイエローです。
それはかつて一目惚れしたモデルがイエローゴールドだったから。
GQ的にレディースを紹介する場合は「彼女や奥様へのプレゼント」となるのでしょうが、
レディースモデルもとても「欲しい」モデルです。
“マイヨン ドゥ カルティエ=MAILLON DE CARTIER”
実にジュエラーとして「カルティエ」に溢れています。
ジュエラーの生み出すレディースウオッチは、
ゴールドワークスが最も大事だと私は考えています。
それは、単に貴金属を用いるだけではなく、素材感をいかに出すか。
その点、このモデルは貴金属のソリッド感を出しながら、
しなやかなラインも持ち合わせています。
長方形の角二辺を切り落とした様な6角のダイアルは、
カルティエの得意とする異形ケースの延長線上にあるものですが、
レディースサイズでも実にバランスよく設えられてます。違和感が微塵もありません。
ケース幅のまま伸びるブレスレットは、リンク厚はありますが、とにかくスムーズ。
重量もかなりずっしりと感じます。
貴金属相場の高騰で、どのブランドも金の使用量をいかにセーブするかを競う中、
マイヨン ドゥ カルティエは金の重量も「デザインのうちです」と言わんばかりの質感です。
多分ブレスレットは中抜きしたいない完全なソリッドかもしれません。
それを考えると素材だけでもバーゲンプライスと言えますが、
やはりハイジュエラーだからこそ可能だったのでしょう。
今年の新作は実にカルティエらしい実直なモデルでした。
インバウンド需要を見越したモデルを控えめにし、
ブランドのレガシーを再評価した落ち着いたラインナップ。
しかし、内も外もアップグレードしながらも魅力的なプライスで攻めるなど、
旧来のカルティエファンだけでなく、新たなファンへのアピールもしっかりやっています。
とにかく現行のカルティエはどれも出来がとても良いのです。
毎年気になるシグネチャ・モデルが発表されるので、予算が限られるこの身には
「買い時が難しい」のが、今のカルティエです。