霞が関公務員の日常 -55ページ目

新連載「地球温暖化対策」 2月下旬スタート!

今、連載中の「中央省庁の仕事とは」は、あと2週間ほどで完結する予定です。


このブログは、連載モノ中心にしていく予定です。


次の連載は、2月下旬ごろから、地球温暖化対策をテーマとしたものを始めます。


政府の地球温暖化対策について、「こういうことを知りたい」「こういうものを書いてほしい」というような疑問、要望がありましたら、お気軽にコメント欄にお寄せください。


ご意見を参考に執筆の構想を練っていきます。



「そんなもん書いたらどこの省庁で働いてるかわかっちゃうじゃん」という説もありますが、自分から省庁名は書かないので、建前上はわからないことになってるってことにしてください。


どうでもいいですが、新連載とチンゲンサイって似てますね。

中央省庁の仕事(6(2)法案の品質を確保するのは法制局)

今回は、法制局審査はどういう観点から法律案をチェックしているのかを説明していきます。


まずは、内閣法制局HPの「法律ができるまで」を見てみましょう。
http://www.clb.go.jp/law/process.html#process_1


内閣法制局における審査は、主管省庁で立案した原案に対して、
 ・憲法や他の現行の法制との関係、立法内容の法的妥当性、
 ・立案の意図が、法文の上に正確に表現されているか、
 ・条文の表現及び配列等の構成は適当であるか、
 ・用字・用語について誤りはないか
というような点について、法律的、立法技術的にあらゆる角度から検討します。


まさにこのとおり、正確な説明なのですが、簡潔すぎてイメージがつかみにくいですね。
具体的に説明していきます。




1.法律の内容の面から


(1)「法律事項」があるか


最初にチェックされるのが、法律で定めなければならない内容(「法律事項」と呼びます)があるかどうか。
通達とかマニュアルとか、別の方法でルールを定めれば十分なら、わざわざ法律にする必要はないわけです。


では、法律事項とは何か。
まず、日本国憲法を読んでみると、法律で定めなければできないことが、2つだけ規定されています。


第31条 何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。
第84条 あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。


第31条のことを「罪刑法定主義」と呼び、どういう行為をすると罪になり、どういう罰則が科せられるかは、法律で定めなければならないとされています。
第84条のことを「租税法律主義」と呼び、何を対象に税金が課され、その税率は何%かは、法律で定めなければならないとされています。


大ざっぱに言えば、「△△の場合は○○しなければならない」「○○しなかった場合は□□の罰則」というセットで、法律事項になります。
逆に、「○○するよう努めなければならない」という努力規定とか、「○○しなければならない」であっても罰則なしの場合は、法律事項とはされません。


また、他の法律の例外を定める規定(「○○法第○条の規定にかかわらず」という言葉を使う)も、法律事項とされています。


実際には微妙なケースも多々あり、法律事項が1つもないじゃないかと参事官に言われて、突き返されることはよくある話。


そこは法令事務官の腕の見せどころで、本当に定めたい内容とはあまり関係ないところで小さな法律事項を1つ作り、「これがあるから法律が必要なんです」と主張すると、参事官は苦笑しつつも認めてくれたりします。



(2)法律の内容として妥当か


次に、法律の内容として妥当かどうかがチェックされます。


例えば、
・義務の内容が厳しすぎないか(自転車の危険運転が多いからといって、自転車の運転を免許制にするのはやり過ぎでしょう)
・複数の人の間で不公平な義務となっていないか(所得税率がサラリーマンは50%、自営業者は30%となっていたら問題でしょう)
・うまく運用できない「ザル法」になっていないか(車の安全基準を守らせるには、車検という手続があわせて必要)


実際には、例のように分かりやすいものばかりではなく、微妙な判断とギリギリの工夫が要求されるケースが多いです。

ザル法にしないための手続は煩雑すぎたり人やお金が足りない場合、どこまで手続を緩めてもザル法と言われない運用が確保できるか、とか。



(3)憲法に違反していないか


あまりないことですが、まれに憲法違反でないかが問われることがあります。


昔の判例で、薬事法の薬局の距離制限規定(近くに薬局があるときは新規の薬局は開けない)が、憲法第22条の営業の自由への違反とされたことがありました。
そういった、営業の自由や財産権を侵害していないかが問われます。


薬局の距離制限と同様に、その行為自体は悪くないけど、同業者の商売に影響するから規制する、みたいな競争制限的なのは要注意ですね。


昔、大規模小売店舗法(大店法)という法律があって、周辺の商店の商売に影響しないよう新規開店のスーパーの面積を制限する、みたいな規制がありました。

今では、大規模小売店舗立地法と名前を変え、周辺の商売への影響ではなく、その店舗自体の問題(渋滞を起こさないよう右折レーンの設置とか)だけをチェックするようになりました。


昔の大店法は、今では法制局を通らないでしょうね。



(4)他の法律とのダブりや矛盾はないか


日本には約1800~2000本の法律があるとされています。
新しい法律を作る場合、そういった既存の法律とダブっていたり、矛盾があったりしないかをチェックする必要があります。


例えば、
・同じ行為に対し、同じ義務を二重に課さないようにする(丸かぶりの法律を作るわけではなく、ベン図の重なりみたいな部分が生じ
た場合に、調整が必要になる)
・新しい法律に基づき行う行為が、既存の法律に違反することにならないか(カジノ法を作る場合、刑法の賭博罪の適用を除外する規
定を置く必要があるでしょう)




ここまで、法律の内容面のチェックについて説明してきました。


この後は、
「2.法律の文章としての表現から」
に続くはずだったのですが、ちょっと長くなりすぎたので、次回に回します。


実は某県庁に出向中

ブログを始めて10日が過ぎました。


まずは、「中央省庁の仕事とは」の連載を毎日1回アップしようと思っていたので、予定どおりの順調なペースです。


しかし、中央省庁は忙しいはずなのに、こんなにブログ書いてて大丈夫なのか?と考える方もいるかもしれないと思い、ひとこと釈明しておきます。


実は今、某県庁に出向しておりまして、本省にいるときと比べれば、だいぶ時間に余裕がある状況です。

ので、しばらくはこのペースで書き続けていきます。

さすがに、この連載が終わったらペースを落とすつもりですが。


ということで、「霞が関公務員の日常」は実は看板に偽りありなのですが、ご容赦ください。

霞が関と県庁の両方を経験して思うところもあるので、いずれ、その両者の関係を考えるような連載もしてみるつもりです。



さて、今日は連載は一休みして、なぜブログを書くつもりになったか、心境を語ってみたいと思います。



ひとことで言うと、大げさですが、この国の先行きに対する危機意識から、ということになるでしょうか。


日本はいま、新興国が台頭し大きな経済成長は望めない中で、少子高齢化と人口減少が進み、政府が大きな借金を抱えている、という状況にあります。


そのこと自体も危機的ではあるのですが、それでも、国民の痛みを伴ってでも何らかの大きな決断をすれば、まだ間に合う、豊かで平和な日本という国を維持できると考えています。


真に危機的なのは、日本の政府が、その「国民の痛みを伴う大きな決断」をする能力を失っているということです。


これは、民主党政権だからどうこうといった話ではありません。
そもそも、政治全体が、行政機関全体が、「大きな決断」をするために必要となる、国民の信頼を失っていると感じます。


じゃあ信頼される別の誰かに代わってもらえばと言っても、現実にはそれは難しいわけです。
やはり、今の政治を担う政治家が、行政を担う公務員が、自分の力で信頼を取り戻すしかない。



どうすれば信頼を取り戻せるか、大きな歴史的ストーリーをいろいろ空想することもありますが、自分の力でできることではない。

じゃあ、自分には何ができるのか。


自分で言うのも何ですが、私は、行政の仕事をする能力にはそれほど恵まれていませんが、行政の仕事を分かりやすく説明する文才には恵まれたと思っています。


であれば、自分のそういう才能と、時間に余裕があるという状況をいかして、公務員(官僚)も意外と信頼できる人達なんだということを示せないか。


そのための手段として、公務員がどういう状況に置かれ、どういう情報を持って、どういう判断をして、どういう政策をしているのか、等身大の生身の人間の姿が見える形で、分かりやすくブログで解説してみようと考えました。


もちろん、大した仕事を経験したわけでもないし、文才があるといってもたかが知れているし、こんなネットの片隅のブログだし、正直、影響力はほとんどないでしょう。


でもやはり、最初の危機意識に立ち返ると、すべての公務員が、それぞれ自分の持つ才能をいかして、行政への信頼を取り戻すために全力を尽くすべきだと思っています。


もちろん、公務員の仕事には正すべきところもたくさんあります。

そういう部分も包み隠さず伝え、でも、不当と考える批判にはきちんと反論していくことが、信頼回復のためには必要なことだと思っています。



頭がまとまらないまま書いたので、何だか大げさな上にとりとめのない文章になってしまいました。


たぶん、1年後に読み返したら、あまりの青臭さに気恥ずかしくなると思いますが、今の私の正直な心境として、ネットの片隅のこのブログに残しておこうと思います。

中央省庁の仕事(6(1)法制局審査の基本のキ)

有識者委員会や利害関係者との調整を通じて、作ろうとするルールの内容ができあがってくると、次は法律案の文章にする作業が始まります。


具体的には、各省庁で法律案の原案を作り、内閣法制局という組織でチェック(審査)してもらうことになります。


この法制局審査は、中央省庁にⅠ種事務官(試験区分:法律・経済・行政)として入った公務員(官僚)なら、誰もが通る仕事です。


私も法制局審査は大量に受けてきたので、思い入れも深いものがあります。

マニアックな内容になってしまいますが、得意分野ということで、6回シリーズで少し長めにお送りします。


その1:法制局審査って何?
その2:どういう観点でチェックするの?

その3:法制局審査つれづれ日記 part1
その4:法制局審査つれづれ日記 part2
その5:私が経験した法制局審査こぼれ話
その6:時代とともに変わりつつある内閣法制局の役割


今回は「その1:法制局審査って何?」をお送りします。



1.内閣法制局とは


「法制局」と名のつく組織は、内閣法制局、衆議院法制局、参議院法制局の3つあります。
内閣法制局は政府が国会に提出する法律案をチェックします。
衆議院法制局、参議院法制局は、国会議員が提出する法律案(いわゆる「議員立法」)をチェックします。


政府で働く公務員(官僚)が「法制局」と言えば、ふつうは内閣法制局のことを指します。
内閣法制局は、各省庁が作った法律案を見て、法律として妥当な内容か、文言の使い方が正しいかなどをチェックします。


これだけだと簡単に聞こえますが、そのチェックはとにかく厳しく、細かい。
また、内閣法制局は政府内でも極めて権威の高い組織で、各省庁がどれだけ出したい法律案であっても、法制局がノーと言えば絶対に出
せないという力関係にあります。
(逆に、衆議院法制局や参議院法制局は、チェックする相手である国会議員よりも弱いという力関係。)


担当者の立場からすれば、上司から「必ずこの内容で法制局を通してこい」というプレッシャーを受けつつ、絶対的な権威のある法制局にチェックされるわけです。
官僚の仕事で厳しいものはいろいろありますが、いちばん強い精神的プレッシャーを受けるのは法制局審査、と言う人は多いように思い
ます。



2.審査をする人、受ける人


法制局は全部で100人ぐらいしかいない小さな組織です。
また、法制局で採用される職員はいなくて、全員、各省庁からの出向者です。


法制局審査の主役は、合計20人ぐらいいる「参事官」という課長級(40代半ば)の職員。
各省庁から1人か2人ぐらいづつ出向し、主に出向元の省庁が提出しようとする法律案を審査します。


20人の参事官が1つづつ専用の会議テーブルを持っていて、そこに審査を受ける側の省庁の職員が3~5人で出向いて説明する、という形で審査を受けます。


1つポイントなのは、審査をする参事官が40代半ばの課長級で、審査を受ける側が課長補佐(30代前半)~係長(20代後半)という格下だということ。

相手は大先輩になるわけで、もちろん主張すべきは主張しますが、最終的に参事官がこうしろと言えば従わざるを得ません。


法制局がノーと言えば絶対に通らないという力関係を、審査の現場ではそういう形(相対する職員同士の関係が、法制局の方が格上)で表現しているということですね。



3.法制局審査のスケジュール


通常国会(1月~6月)に法律案を提出する場合、3月中旬が提出の締切になります。
厳密に言うと、予算案の国会提出(ふつうは1月下旬)から7週間後が締切です。
それより遅れても提出はできますが、遅れた法律案は国会審議の優先順位が下がるので、成立しにくくなります。


今年は1月24日(月)に予算案が国会提出されたので、締切は3月11日(金)です。
微妙に日がずれているのは、法案を決定する閣議は週2回(火曜日と金曜日)しかないためです。


なお、税制改正、医療、年金といった、税金の集め方や使い方を定める法律案は、普通の法律案より締切が早くて、予算案の提出から3週間後(今年は2月10日(木))ですが、ここでは省略します。


法制局審査のスケジュールは、3月中旬という締切から逆算して決まります。
10月頃から法律で定めようとする内容のチェックが始まり、内容にだいたいOKが出た後、11月頃からは条文の形式を整えて一言一
句に至るまでのチェックを行います。


「参事官」と呼ぶのは1条を審査するのに3時間かけるからだという冗談があるぐらい、みっちりチェックされて、たんまり宿題をもらって帰されます。
宿題への回答を3日~1週間ぐらいかけて作って、法制局にまた説明に行く、というプロセスを何度も何度も繰り返します。


ちなみに、参事官は法律案を5本ぐらい並行して審査しているので、他の法律案との間で参事官のスケジュールの取り合いになることもしばしばです。


1月半ばに参事官からOKが出て、参事官がその上司である部長に説明します。
部長からもけっこう宿題が出て、部長のOKが出るのに2週間ぐらいかかって、2月上旬。


法制局の部長のOKが出たら法律案を他省庁との協議に出していいというルールになっています。
各省協議には2~3週間、それと並行して法制局の次長・長官へと説明していき、だいたいそれらが終わると、3月上旬ぐらい。


各省がすべて合意し、法制局長官がOKを出したところで、晴れて閣議で法律案を決定し、国会に提出することになります。
10月の法制局審査開始から3月の閣議決定まで、緊張の日々が続く、かなりしんどい仕事です。




今回は、法制局審査の全体像をお伝えしました。


次回は、「審査」とは、具体的にはどういう観点でチェックしているのかを説明します。

中央省庁の仕事(5(2)電力自由化に見る利害関係者)

前回の記事について、タカ派の麻酔科医様からコメントをいただきました。


私の巡回先ブログの1つ、「新小児科医のつぶやき」の常連の方です。
http://d.hatena.ne.jp/Yosyan/


長くなりそうなので、コメント欄ではなく本文にて回答を。
(ブログ開始前に書きためたストックが切れたので、これで1日稼げたとも言う)

 高齢者介護は、どっかの民間企業が乗り込んできたものの、結局うまくいかずにほりなげました。ある意味医療関連業界のことを全く知らない人間が、首を突っ込んでもだめという見本。というよりも、医療福祉業界は、金儲け主義の他の業種のやり方は通用しないということを立証してしまいました。
 うまくいった好例は何かありますでしょうか?


例示は自分が実際に担当したものではないので、イメージ程度のものとご理解ください。

お医者様や建築士などその道のプロから見れば、「モノを知らない奴だ」と思われることでしょう。
汗顔の至りです。



他の例として、例えば電力自由化はどうでしょう。
(少しだけ自分のテリトリに近づけてみた。)


平成7年以前は、電気事業法という法律により、一般の需要家に電力を供給するのは東京電力、関西電力など地域独占の数社に限定されていました。
それが徐々に規制緩和が進み、今では電力の小売りに新規事業者が参入可能となっています。



自由化のイメージ図(役所ではなぜか「ポンチ絵」と呼ぶ)はこれ。
http://www.hkd.meti.go.jp/hokpp/hiroba/biji_ara/outline.htm


分かりやすくていい図だと思います。
作成した経済産業省の担当者に1拍手。



具体的に誰が新規参入しているの?といえばこれ。
http://www.enecho.meti.go.jp/denkihp/genjo/pps/pps_list.html


ガス・石油会社、製鉄会社、製紙会社など、ふだんから燃料を多く購入していて、沿岸部の工場に土地が余ってそうな人たち。
あとは商社。


(注)ダイヤモンドパワー=三菱商事系
   イーレックス=三井物産系
   サミットエナジー=住友商事系
   エネット=東京ガス、大阪ガスの子会社


お行儀の悪い企業(グッドウ…(自主規制))も多数参入した介護や人材派遣に比べると、巨大な先行投資を要する事業なので、お行儀のいい企業しか参入しなかった感じですね。



どんないいことがあったの?といえばこれ。(自由化後の電気料金の推移)
http://www.enecho.meti.go.jp/denkihp/shiryo/ryokin.pdf


電気料金は、新規参入の効果もあってか、かなり下がっていますね。
それでも、自由化後も電力の質は落ちず、安定した電圧、周波数で停電なく供給されているので、成功した事例と言えるのではないでしょうか。



ちなみに、電力自由化の失敗事例といえばこれ。(カリフォルニア電力危機)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%AA%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%AB%E3%83%8B%E3%82%A2%E9%9B%BB%E5%8A%9B%E5%8D%B1%E6%A9%9F


このカリフォルニアの失敗事例は、日本での制度設計に当たって、反面教師として詳しく研究したことでしょう。



電力自由化の利害関係者は、既得権者である電力会社、新規参入の候補者であるガス・石油会社や商社、電気料金が下がって得をする産業界や国民です。


経済産業省が新規参入者側に立って電力会社が対抗する、という形で激しいバトルが繰り広げられている分野です。
経済学者を使った経済産業省の理論武装 vs 電力会社の政治力 というイメージでしょうか。


平成14年頃に電力自由化を審議していた有識者委員会、「総合資源エネルギー調査会 電気事業分科会 基本問題小委員会」のメンバーはこれ。
http://www.enecho.meti.go.jp/denkihp/bunkakai/kihon_mondai/1th/1th-siryo2.pdf


規制緩和の急先鋒の経済学者、八田達夫教授を入れているのが目につきます。