官庁訪問の舞台裏 | 霞が関公務員の日常

官庁訪問の舞台裏

 前回の文章 は、役所側の買い手市場を前提に、「こういう風に振る舞えば役所は採用してやるぜ」みたいな偉そうな表現に見えたかもしれませんね。

 面接に苦戦する学生さんへのアドバイスに特化して書いたのでそうなりましたが、役所側から見れば、全くそうではありません。


 逆に、優秀な学生という少ないパイを、いかに他省庁や民間企業と争って確保するかで必死、というのが採用担当者の感覚だと思います。
 そういった点も含め、役所側がどのように採用活動を行っているのか、舞台裏をちょっと紹介してみます。


(注)官庁訪問事情は年々変化しているので、現状に合っていないかもしれません。また、自分の所属する省庁の特殊例かもしれません。この2点に注意して読んでください。



1.役所側から見た学生の人数バランス
 役所側から見ると、採用する学生の選択肢はそれほど多くありません。
 全省庁の採用予定総数の3倍の人数を合格させ、1人平均3省庁訪問するとすれば、各省庁には採用予定数の9倍ぐらい面接に来る計算になります。


 そのうち、ぜひ採用したい優秀層が1/4、採用してもいい層は1/4、採用したくない層が1/2ぐらいでしょうか。さらに、優秀層は他省庁と取り合いになります。
 優秀層上位1/4だけで内定の枠を埋めるのは、どの役所にとっても難しいでしょうね。


 優秀な学生を見極めるのはそれほど難しくありませんが、優秀な学生に就職先として自省庁を選んでもらうのは、実に難しいことです。
 採用担当者にとっては、優秀な学生を選ぶよりも、いかに自省庁を魅力的に見せ、優秀な学生に選んでもらうかが最大のミッションと言っていいでしょう。


 内定出したのに他省庁に逃げられた、みたいなことも日常茶飯事。
 まぁ、省庁側にとっては誰を採っても大差はありませんが、学生さんにとっては人生の重大な岐路ですから、後悔のないよう選んでもらえればと思います。
 ちなみに私は、今働いている1省庁しか内定がもらえなかったので、選ぶ余地はなかったです。本当は厚生省(当時)に入って社会保障の仕事をしたかったのですけどね。



2.官庁訪問の面接者の役割分担
 官庁訪問に行くと、いろんな人の面接を受けることになります。
 1日のスケジュールは、最初は官房の採用担当者に会い、そこから各部局の若手2~3人に会い、また官房の採用担当者に会って終わり、という感じでしょうか。
 何日か訪問していくと、そのうち各部局の管理職とかにも会っていって、最後は官房の人事課長に会うことになります。


 誰がどういう役割なんだと感じるかもしれませんね。大まかに言えば、こんな感じの役割分担です。
各部局の若手~課長補佐 : 多数会わせて、評価を総合して学生をふるい分け
官房の採用担当者 : 誰に内定を出すかを最終決定
各部局の管理職 : 優秀という評価が固まった学生を会わせて、評価を再確認
人事課長 : ほぼ内定が決まった後のセレモニー。まれに落とす場合あり


 官庁訪問の序盤は、学生のふるい分け。
 各部局の若手~課長補佐を中心に多くの人に会わせて、何段階かで評価させます。
 その平均点を取るなどして、ぜひ採用したい層、採用してもいい層、採用したくない層と大まかに分けていきます。


 ある程度評価が固まると、上位層は管理職にも会わせていきます。
 ただ、実質的に内定を出す決定権は、肩書上偉い管理職にあるわけではなくて、官房の採用担当グループのリーダー(40歳前後、管理職と課長補佐の境目ぐらい)にあるのが一般的です。


 「あの期は○○さんが採用した」といつまでも言われ続けるので、けっこう責任を感じると聞きます。
 女性が採用担当だったときに、採用者にやけにイケメンが多い、というまことしやかな噂が流れたこともあるそうです。

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3.学生を評価する基準
 どのような人を採用するかの評価基準は、ひとことでは言いにくい面もあります。
 同じタイプの人ばかり採るのはよくないため、猪突猛進系と沈思黙考系とか、理路整然系と朴訥系とか、即戦力系と大器晩成系とか、組み合わせて取っていくので。


 男女比も考えますね。女性比率はざっくり3割ぐらいが目安でしょうか。
 ちなみに、出身大学はほとんど考慮しません。採用は東大生有利、入ってからも東大卒でないと出世できないみたいのは、昔は知りませんが今となっては都市伝説ですね。


 さて、そのように組み合わせが大事とは言っても、やはり共通する評価基準のようなものもあります。



(1)バランス感覚よりも行動力、突破力
 官僚の仕事に、今までと同じことを淡々と続けるというものはありません。
 今までにない仕事、新しい仕事を作り出して、初めて評価される世界です(それがいいことかどうかは別問題ですが)。


 なので、迷っても立ち止まらずとりあえず行動してみる、みたいな無鉄砲さのある人が好まれます。
 バランス感覚は仕事をしていれば嫌でも身に付きますが、困難が見えていてもとりあえずやってみるという行動力は、後から身に付くものではない気がします。
 部下を持ってみて気づきましたが、やるけどやり方が拙い人を指導するのは簡単ですが、やらない人にやるように指導するのは困難です。



(2)初対面の人と話すのが好き、得意
 役所の仕事は、数多くの関係者と相談しながら進めていくものばかりです。
 政治家、他省庁、地方自治体、民間企業、学者、NGO、業界団体、などなど。


 初対面の人と話すのが嫌い・苦手では、うまく行かないでしょう。
 ただ、これは(1)と違って、本音では嫌い・苦手でも、表面上そつなくこなすことは可能なので、面接で自然な会話ができていれば十分かな。



(3)議論に強いこと
 (1)(2)は民間企業や地方公共団体にも共通すると思いますが、この(3)は中央省庁の官僚の1つの特徴かもしれません。
 他省庁との協議が典型なのですが、敵対的な相手を論理で説き伏せるような意見交換をすることが多いので、そういうのに強い人を求めているところがあります。


 考え方が論理的だとか、話し方が理路整然としているとか、頭の回転が速いとか、押しが強いとか。
 人間の能力の1つだとは思いますが、官庁訪問では一般よりもこの点が高く評価されます。

 その結果、中央省庁には、議論には強いけど人格円満さに欠ける人がけっこういる気がするので、この採用基準がいいことなのかどうかはわかりません。





 「舞台裏」と言うほど裏側のことは書けていない感じですが、官庁訪問をしようとする学生さんに何らかのヒントになれば。