結局、抜毛症は中学1年生のときに部分的なハゲを人から指摘されるまでになったので、
意識的に抜かないようにすることで治まった。
まあ、原因となる中学受験自体は終わっていたから、なんとかなったのだろう。
それでも、受験によって得たものの小ささと失ったものの大きさを思うと、
あまりにバカバカしくて笑いたくなる。

大学時代に小学校の同窓会があったとき、
同級生から「(僕が)塾で忙しかったのに、俺らが遊びに誘ってねえ」と言われた。
そんな風に思っていてくれていたのかとうれしさを感じると同時に、やはりがっくりきた。
そうじゃないんだ、自分はそのときいわば教育ファシズムの世界に閉じ込められて、
心の救いは学校にいる時間だけだったんだと、今でも伝えたい気持ちになる。
僕はハラスメント講師に多大に嫌な思いをさせられて、抜毛症で自分を傷つけながら、
わざわざいい友人たちや恵まれた環境から離れるための努力をしていたのだ。

今、小学校の同級生でつくった小さなLINEグループに入っているが、
卒業後、30年近く交流はなかったにも関わらず、それほど違和感はない。
僕が通った中学の環境が特別に悪かったわけではないが、
距離的にも人間的にもやはりアウェーで、それと比べると、地元はホームだった。
地元の中学に通った方がはるかに時間的な余裕があり、
勉強にしろスポーツにしろ遊びにしろ、ずっと充実した生活を送れただろう。

僕は今、その地元の中学の近くに住んでいるが、朝練に通っている中学生たちを見ると、
彼ら彼女らの恵まれた環境がうらやましくてたまらなくなる。
余計なことさえしなければ、僕にもごく普通の青春があったんだろう。



昔見ていた海外ドラマの「ビバリーヒルズ高校白書」で、
高校生の主人公ブランドンの双子の妹ブレンダが、アルバイトをする話があった。

あるとき、ブランドンがアルバイトをしていることから
ブレンダが自分もしたいと母親に話すが、最初、母はいい顔をしない。
それでもしたいとブレンダが重ねて求めるので、「すぐに辞めちゃだめよ」と許可する。
そしてブレンダはブティックの店員として、アルバイトを始めることになる。

その店は歩合制で、伝票に記入することで成績となる。
最初は店員として接客をし、自分にこの仕事が合ってるみたいだとブレンダは喜ぶが、
あるときいつものように接客をしていると、その途中に先輩から伝票をひったくられる。
「何するんですか!?」とブレンダは抗議するが、
「彼女は私のお客よ。今月は苦しいから譲るわけにはいかないわ」とはねつけられる。

さすがのことに家でブレンダが納得いかない顔をしていると、
母が「どうしたの?」と話しかけてくる。
そこでブティックで先輩にされた仕打ちを話すと、
「どうしてそんなことをされて黙ってるの!」と怒られる。
「だってママが辞めちゃだめだって言うから」と返すと、
「それとこれとは話が別よ」と仕返しをすることになる。

ブレンダの母はセレブを装い、ブレンダが働いているブティックを訪れる。
先輩は「あれは相当なお金持ちよ。売り込んで見せるわ」と意気込み、
接客対応をしながら次々と服を売り込んでいく。
それに対してブレンダの母は、最初は「あれもちょうだい。これももらうわ」と
服を運ばせるが、途中から、「やはりあれはいらない。これもいらない」と返していき、
最後には先輩に、「あなたは選ぶ服のセンスが良くない。
また後輩に接する態度もなってない」と痛烈にダメ出しをして、何も買わずに去っていく。
呆然とする先輩に、「私このお店辞めます」と伝えてブレンダも去っていく。

こういうなかなか痛快な話なんだけど、現実には、
母親がブレンダに「最初にすぐに辞めてはだめだと言ったはず。文句を言うな」と
働き続けることを強制し、そのうち先輩からハラスメントを受けるようになって、
ストレスでブレンダは精神を病んでいった、なんてこともありうるわけである。
まあそんな話、誰も見たくないだろうけどね。