そうやってせっかくいろいろ実験したので、聴いた人に感想を聞きたかった。
音楽としておかしくなかったか、その場としてやってることに違和感はなかったか。
でもわざわざ「どうでしたか?」と訊いて回るのはなんかうれしげだし、
また前述の通り、そもそもが反感を買う行為だったので、訊きにくいのもあった。

それでも女性は何人か「よかったです」と言ってくれた。
ただ女性は社交辞令が多いから、ましてやもうすぐ辞める人のことだから、
悪くは言わないだろう。
だから男の、しかも利害関係のあまりない協力会社の後輩ぐらいから
率直な感想を聞きたかったのだが、彼らは彼らで面白くなさそうな顔をして、
「ギターの指が外れていた」とか、どうでもいいことを言うだけだった。
正直がっかりした。

結局、一番好感を持って面白がってもらえたのは協力会社の年上の人たちで、
音楽としての評価は誰からも聞くことはできなかった。
だから僕は、面白くなさそうにしていた男たちの顔を見て、
自分の音楽の出来を推測するしかないというのだろうか。
なんともバカバカしい話だ。



そして同期会の送別会。
同期会の方は退職後になった。

すでに退職している人も含めて、確か20人を超えたぐらいだったかと思う。
そこでも前置きには同じスピーチをして、同じように演奏した。

感覚的にはギターに力が入りすぎず、1回目のときよりうまくいった。
だが聴く人にはあまり伝わらなかったようで、
一箇所だけ「おおー」と嘆声がもれる箇所はあったものの、
半分の人は聴いて、半分の人はあまり聴いていないようだった。
そりゃ送別会とはいっても同期会の意味もあるからみんな雑談したいだろうし、
退職する人もスピーチ以外に弾き語りする人など普通はいないが、
たった5分程度も静かに聴けないんだなと、なんとも違和感を覚えた。

僕が徐々に同期会に参加しなくなったのは、
話題があまり興味のわかない雑談ばかりで、少しも仕事の話にならないからだった。
僕からすれば人がどんな仕事をしているのか興味があったし、
同時に人が知りたいなら自分のしていることも話したかった。
他部の人がしている仕事なんて普段はなかなか知ることができないからである。

ところが誰もそのような話をしないし、僕から話を振っても全然乗ってこない。
同期の中で一番の仲のいい奴が言うことには(辞めることはこいつに最初に言った)、
みんなお互いがライバルだから、腹の内は見せないようにしているらしかった。
そんな環境で面白い話など聞けようはずがない。
その割に、少ない人数のときに仕事の話になったかと思うと、
今度は人格攻撃や人格否定が始まるのである。
ほとほとうんざりさせられた。



本当は弾き語りも、「こんなん面白くない?」ぐらいの提案の意味もあって、
楽器経験がなくても何かしら興味がある人はいると思っていたのだが、
まったく刺激にはならなかったようだった。
こうやって、最後までどうも同期とはしっくりこなかった。

ドラマ化もされた「チャンネルはそのまま!」という漫画で、
会社の同期会で同期同士がお互いの部の立場の違いから口論になり、

喧嘩別れになるが、その後、喧嘩相手が真摯に仕事に取り組んでいる姿を

目の当たりにし、その立場を理解して同期の窮地をフォローするという話がある。
これも腹を割って話し合っているからこそ生まれる話だろう。
僕はこの話は傑作の一つだと思う。

もし今の僕が「給与明細を電子化したことでこんなに便利になったんだ」だの
「電子記録債権を導入したことでコストと手間がこんなに効率化されたんだ」と
目を輝かせて話したとしても、この弾き語りと同じように、なんら反応はないだろう。
彼らとは興味の範囲がまったく違っていたようだった。

こんな「私のことは興味なくても……」、みたいな感じで、
僕は6年間勤めた会社を卒業したのだった。