神戸市住吉川の土石流で運ばれた岩石 | 地質・地理と文化 ージオサイト巡りの旅-

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6月23日、久しぶりに神戸市東灘区の住吉川流域に行ってきました。

ここは1938年7月5日の阪神大水害で特に土石流被害が大きかったところ。阪神大水害80年行事実行委員会制作の阪神大水害デジタルアーカイブを見ると、特に住吉川流域で大きな岩石が流されてきているのがわかります。そしてその名残りは現在も各地に見られます。

 

阪神大水害の石碑

六甲山麓では各地に当時の水害の記憶を残す石碑があります。その多くは実際にその時流されてきた岩石が利用され、その中でよく知られているものの一つに住吉学園に設置されている碑があります。

この巨岩は阪神大水害後、この高さにあったのをそのまま残したものです。言い換えると、この巨岩のところまで土砂で埋まっていたことになります。土石流で流れる泥水は通常の水より比重が大きいので、このような巨岩でも浮き上がって流れるます。

 

また、大きさの違う粒子が集まった部分が動くと、大きな粒子が浮き上がることが知られていて、ブラジルナッツ効果(1) とよばれています。同じようなことは土石流にもあり、土石流堆積物の上部に巨岩が集まるのはそのためだと考えられています。下の写真は住吉川ではなく芦屋市になりますが、工事中に出た過去の土石流堆積物です。下の方に細かい砂礫があって、その上に大きな石があるのがわかります。

 

もう一つよく知られている石碑に水災紀念の碑があります。住吉台の道路際にあり、台座にはその時達した最高水位が刻まれています。

 

ここで驚くのは、住吉川の河床との高度差です。はるか下を流れ、水量もそれほどではないように見える川の水が一気に増え、ここまで達しました。六甲山麓にはそれほど大きな河川はありませんが、一つの川に流れる枝沢が多く、大雨の時には一気に水量が増します。

 

街の中に見られる土石流の岩石

JR住吉駅を降りて周辺を歩くと、特に川沿いの公園や道端に当たり前のように石が置かれています。それらは角が丸くなっていて、土石流で運ばれてきた岩石であることがわかります。中にはそれらがベンチとなったり、加工されていることもあります。

 

六甲山麓の建物の特徴は、石垣が四角く切った石ではなく、丸みのある自然石でできていること。これらも実は土石流で運ばれてきた岩石で、いくつかは阪神大水害の時のものであることがわかっています。

 

土石流がもたらした石材

六甲山地は古くから花崗岩の産地で、それらは御影の浜から各地

に運ばれたことから「御影石」と呼ばれていました。花崗岩石材の代名詞のように使われている「御影石」ですが、現在の六甲山地には採石場はありません。唯一残っているのが住吉川上流にある石丁場で、ここでは谷に落ちている岩石を集めて加工しています。これもはふもとまで流れず、たまたま途中で泊まっていた岩石であり、ある意味土石流の遺物を利用していると言えます。 もしかしたら、昔この地域が「御影石」で知られるようになった背景には、このような土石流が関係していたかもしれません。

 

このように見てくると、この地域のあらゆるところに土石流の災害遺物があり、人々は毎日それを見て過ごしていることがわかります。災害をただ恐れるのではなく、それらを使ってきた歴史を振り返ること。同時にこれからも災害の危険をはらんだ地域で生活していることを、これらの石は伝えてくれます。

 

(1) ブラジルナッツ効果: 私はブラジルナッツを見たことが無いのでよくわかりませんが、長径2~3㎝ある大きな実のようです。それを含んだミックスナッツの容器を揺らすと一番大きなブラジルナッツが表面に浮き上がってくることから、同様の現象を「ブラジルナッツ効果」と呼んでいます。