北九州市の「環境政策について」視察するため、北九州市 環境局 再生可能エネルギー導入推進課を訪れました。

北九州市では、2025年度までに再エネ発電所の電力を活用し、
市内全域 約2000ヵ所の施設が使用する電力を再エネ100%化することを目指し、取り組んでいます。

このことは都道府県や政令市では初となる試みであり、全国から大変注目されています。

先進諸国が国益の確保や新たなビジネスチャンスとして脱炭素やSDGsを掲げる中、

我が国は2020年10月、菅義偉総理によって「2050年カーボンニュートラル宣言」が出されたことにより、
国内の自動車メーカーからは、そのサプライチェーン企業へ二酸化炭素排出量の3%削減の要請が出されました。

多くの企業や大規模な工場を抱える北九州市では、市内企業から市内の再エネを利用した再エネ100%電力を供給する要望が増加するようになり、

市外の企業からは「北九州に立地すれば再エネを利用できるのか?」との問い合わせが増加し、

外資系企業からは「実質再エネではなく、再エネを使いたい!」と更に一歩進んだ要望が寄せられるようになりました。

これらのことを受けて北九州市は、「市内企業が脱炭素の流れに乗り遅れるとグローバルな市場から締め出されかねない、

再エネ化によるコスト増で企業が競争力を失わないよう、市内に集積した再エネをしっかり活かす手法を確立し、市内企業を応援する仕組みづくりが必要だ。」と考えました。

そして再エネ化によるコスト増を最小化できれば市内企業への再エネ化は順次次々と進むと考えました。

そこで、集積した市内の再エネを活用して、安定的かつ可能な限り安価な再エネ100%電力を提供することで、
脱炭素経営が求められるグローバル市場での競争力の強化を図ることが北九州市の役割であり、北九州市のエネルギー政策の目的である、としました。

また、北九州市では、再エネ100%電力を安定的かつ可能な限り安価に導入できる北九州モデルを国内外で広く民間企業が利用できるよう、横展開可能モデルとして構築し、
再エネ100%電力が利用可能であることを広くPRし、この電力を使用する企業を応援すること、
また民間企業や大学等と連携して、再エネ100%電力をより安価に利用するために必要な技術開発と社会実装をすることが北九州の役割としてきました。

まず北九州市はステップ1として市内のごみ処理場等から発電される再エネ100%電力を市所有の施設に供給することから始めました。

市内の2000ある公共施設に順次再エネ100%電力を導入し、現在では447施設がその電力によって賄われています。

次にステップ2として、電力会社によって公共施設や民間施設の敷地や屋根上に太陽光発電と蓄電池を設置してもらいつつ(第三者保有方式)、
IOTやAIを駆使し効率よく蓄電池を制御することによって自立型エネルギー施設を開設しました。

現在、北九州市 若松消防署などで導入されています。

そしてステップ3としてステップ2で実現した自立型エネルギー施設に、電力会社が更に「省エネ機器」を設置することによって、総消費電力を低減化すると同時に省エネ機器をIOTやAIで監視し、機器の長寿命化と維持管理コストを低減させました。

実際に北九州市の小学校の給食室に導入し、エアコン動作環境をIOT監視機能によって常に把握することにより、最適な維持管理を行い、2年間の機器の長寿命化を実現し、エアコンの導入や維持管理コストを抑制しています。

また若松消防署にスケジュール管理機能を活用した点灯・消灯制御やAIカメラ、人数カウントセンサーを有するLED照明機器を導入し、
24時間稼働する消防署では、それまで4.6年だった使用期間を7年へと長寿命化を実現し、年間消費電力量を37%削減の7万キロワットアワー削減しました。

このことは機器導入コストを勘案しても、電気料金削減効果の方が高いとのことでした。

北九州市ではサーキュラーエコノミーのコンセプトから生まれた価値を使用した再エネ100%電力のコストを抑制し、安価な再エネ100%電力を実現しています。

サーキュラーエコノミーとは、原材料や製品を循環させ、廃棄物や汚染を低減しながら、経済的な成長を実現するための、新たな経済システムのことで、

北九州市では公用車など通常7年でリース期間が終了するEVの車載用蓄電池を、自動車メーカーバッテリー交換プログラムの実施をすることによりリース期間を14年に延長しながら、中古バッテリーを定置型蓄電池に再生することも実現しています。

また第三者保有方式で市有施設や民間施設に電力会社によって太陽光パネルや蓄電池、エネルギーマネージメント機器を設置し、発電した余剰電力を電力会社に提供し、更には蓄電する仕組みを構築しています。

太陽光パネルや蓄電池の第三者所有モデルは、ほかにも事例がありますが、設置した施設外の再エネ余剰電力を蓄電する仕組みは、北九州市独自の取り組みで他に例を見ない取り組みですし、
電力の地産地消の事例でも全国的にほとんど見受けられない事例です。

これらの取り組みにより、北九州都市圏域の公共施設群と北九州若松区のリサイクル企業群は環境省の「脱炭素先行地域」に採択されており、

民生部門の電力消費に伴うCO2排出量の実質ゼロと再エネ設備最大限導入の手法である「再エネ100%北九州モデル」は益々その効果を社会に提供し求められています。

北九州市での取り組みを更に広めるため、これまでの成果を導入施設数やCO2削減量を数値で公表することで、自治体間や民間企業と一体感を持って脱炭素社会の実現に向けて取り組んでいます。

2021年7月、公共施設での成果を市内のリサイクル関連企業に公表したところ、

「再エネが使えるのなら我々も使いたい」

「再エネを公共施設で使い切ってしまわれたら困る」

「環境分野で貢献していきたい」

「再エネ100%電力を利用するなら、企業として利用していることをPRしていきたい」

等など様々な熱い意見が民間企業から寄せられ、「官民連携しながら脱炭素に向けてやっていこう」との強い意志を感じたそうです。

それらの声を受けて民間企業に対し「北九州市脱炭素電力認定制度」を設け、認定されれば様々な特典が受けとれる制度も設置し、

現時点では24社32施設の企業が認定企業として認定され、年間約42318tもの二酸化炭素を削減しています。

これまでの民間企業との主な連携協定として、

北九州のデパート井筒屋とはEVシェアリング実証事業。

トヨタ自動車九州とは車載用バッテリーのリユース・リサイクルの連携。

九州電力とは蓄電池の活用などの連携。

九州工業大学とは大規模蓄電池のエネルギーマネージメントシステムの社会実装など各種研究の連携。

ダイキン工業とは高効率空調設備の最適利用の連携。

デンソー九州とは中小企業向けに製造ラインの効率化支援の連携。

Yanekuraとは太陽光パネルから直流のままEVに充電できるよう、充放電機器の連携。

 などがあり、今後は北九州市が自らHUBとなって各社を繋ぎ、脱炭素技術のブレークスルーを起こしていきたいとのことでした。

北九州市は今後洋上風力発電所の誘致も含めて再エネ100%電力の推進を更に進めていくとのことでした。

また、今後とも具体的な取り組みをできる企業・大学と連携を進め協定を締結し、脱炭素社会の実現に向けて共に進めていく予定とのことで、これまでの北九州市の取り組みや未来展望について力強く説明くださりました。

これら先進的な北九州の取り組みは、当地が古くから工業地帯として栄え、多くの大手企業も立地しており、時代の変化に敏感だったからこその先進事例であると思うと同時に、

通常では慎重の上にも慎重を期す性質の行政職員がいかんなくチャレンジ精神を発揮されたことにより成し得ている事業だと感じました。

また玄海原子力発電所も隣接していることから、二酸化炭素排出を計算上伴わない電力の確保には優れた立地であることもさることながら、
元々はごみ処理施設で発電された電力を再エネ100%電力として捉え、その電力を地域企業の発展に効果的に活用してきた発想は、

行政マンと言うより総合商社のビジネスマンのようであり、やはり変革を起こしていくのはこのような方々なのだなと感じました。

地理的条件が異なり、町田市での導入には大変難しい事業でありますが、町田市でも北九州市に倣い、時代の潮流を読み様々なアイディアや考えを率先的に実行できるよう取り組んでまいりたいと思う刺激的な視察となりました。

直近ではロシアのウクライナ侵攻の影響でエネルギー価格が高騰したことにより世界各国はエネルギー政策の変更が余儀なくされ、

原発ゼロを推進していたドイツをはじめとするEU諸国も電気料金の高騰に耐え兼ね、原発を再稼働させました。

それまで過去最高値を更新していた電気料金は10分の1にまで下がるなど、世界のエネルギー政策や環境政策は大きく変化しています。

ついこの前まで騒がれていた「SDGs」も2022年3月発表の過去5年間グーグル検索ランキングでは日本が1位(100%)で2位以下のジンバブエ(28%)、ウガンダ(21%)と大きな差になり、先進国ではもはやSDGsへの関心がほとんど無いことが発表されました。

これらのことからも先進諸国は環境政策を新たな投資先としてのみ考え、国益に則り新たなルールを敷くことが目的に思われます。

世界の潮流を様々な角度から捉まえることに注視しながら、広く市民に啓発していき町田市のごみから発電される再エネ100%電力をいかに有効に活用していくか、

様々な公共施設からコストを最小にしつつエネルギーを抽出する方法を研究していきたく思います。