3年ぶりに「地域医療政策セミナー」が都市センターホテルで開催されました。
 
第16回目となる今回の講演は、
①「公立病院の新型コロナウイルス感染症対応実績と今後の新興感染症拡大時時に備えた対応」
 
全国自治体病院評議会 竹中賢治 副会長 (天草市病院事業管理者)
 

②「30年先を見据えて 崖っぷち民間病院からのお願い」
 
医療法人 医仁会 ふくやま病院 譜久山剛 理事長
 
 
① の講演では、コロナ対応に公立病院が中核的な役割を果たしてきたことで、感染症拡大時の対応における公立病院の果たす役割の重要性が改めて認識されたと共に、

病院間の役割分担の明確化・最適化や医師・看護師等の確保などの取組を平時から進めておく必要性が浮き彫りになったことから、
 
新興感染症等の感染拡大時に備えて平時から役割分担の明確化や対応方針の共有等を行っておくことが、災害などの大規模な健康危機への対応にも資するものであるため今後益々推進して行くべき、との内容でした。
 
現在の新型コロナウイルス感染症は第7波となっていますが、データが既に取られている第4、第5波までを分析することによって、今後の医療体制のあり方を検討していく内容です。
 
コロナ対応では、重点医療機関が58%の患者を、協力医療機関28%の患者を治療し対応してきており、その殆どは公的な医療機関でした。
 
コロナ対応は都道府県指定の重点医療機関によって治療されてきましたが、院内感染も発生し、4波で9.2%5波で6、6%発生。
 
コロナ対応に一般病床を使用せざるを得ない実態から、一部の病棟や外来の閉鎖などがおこなわれ、入院患者数、外来患者数、救急患者数、救急車受け入れ件数共に減少し、手術件数も必然的に減少しました。
 
これらのことから医業収支が4、7%〜6、5%減少し、一般病院全体で100床あたり1億5000万円の減収になりました。
 
医業収支比率は低下したものの、病床確保の補助金が交付されたことによって平均経常収支比率は好転しました。
 
また、コロナ対応にあたった医師看護師からは、激務であったことから多くのメンタルヘルス事案が発生しているとのことでした。
 
今後、国の「第8次医療計画」では新たに「新興感染症等の感染拡大時の医療」が盛り込まれていくことを踏まえて、公立病院は平時から必要な機能を備えておくことが必要となってきており、

公立病院はこのことに対しては異論は無いものの、過酷な経験をもとに今後危機にいかに備えていき、病床の確保、臨時医療施設の整備など、新たな体制を構築していくことが必要であるとのことです。
 
またコロナ患者を受け入れていない医療機関や地域の医師会から看護師の派遣を受けるなどの支援により、医療人材確保に地域全体で対策にあたる必要があるとの指摘でした。
 
また医師不足については、「専門医でなければ」との考え方から離脱すべきで重症者を除けば一般医療の範囲内でカバーできる部分は多いとのこと。
 
看護師不足に対してはタスクシフトによって医療関係者以外の職員でもできる仕事の振り分けることが必要とのこと。
 
急な人材確保は難しいことから、感染症対策の研修を必須とし、有事の際には速やかに感染対策に従事出来るような技術の維持と、

予備役のような現役ではないが有資格者の登録制度を構築すべきとのことでした。
 
また有事にあっても労基によって厳密に監督されるので、有事の対応がきちんと出来るよう労働基準法の特例措置を設ける必要性についてもお話くださりました。
 

 
②の講演では、「30年先を見据えて 崖っぷち民間病院からのお願い」とのタイトルで明石市の民間病院の理事長としての視点で、増え続ける社会保障費(医療介護に要する費用)をどうやって支えていくか?との内容でお話しいただきました。
 

明治33年(1900年)の人口は今の半数以下の4384万人。

令和82年(2100年)の人口は明治33年より少し多い4771万人。
 
33年先の2055年の日本で1番人口が多いのが80代で81歳が年齢人口のピークとなり、明治時代とは大きく異なる。

自ずと増加するのは後期高齢者で主要国で最も高齢化率が高いのが日本であり、
 
年齢と共に医療費、社会保障費は増加することから、いかに歳出を抑制しつつ歳入を増やす取り組みが必然的に重要になってくる、との課題に向けての講演です。
 
公立病院が群雄割拠する兵庫県や福岡県の例を示しながら、人口減少社会の中での医療体制のあり方について、民間病院ができることをもっと民間にやってもらい、そこから税収が上がる制度を設ていく必要性を説かれました。
 

医療分野以外の岩手県の紫波町の公共用地のPPPによる「オガール」の成功例、佐賀県の武雄市民病院が民間に運営委譲されたことによっての成功例、富山市のコンパクトシティ構想、明石市のこども政策などについても触れながら、
譜久山先生が現在ご自身の病院を苦労して立て直している経験をお話しくださいました。
 
「がん哲学外来」を知ったことによって医療従事者が白衣を脱いで患者と患者のバックボーンとも向き合う取り組みや、病院内での映画の上映会や落語の取り組みによって、明るくなった病院運営を広める活動もされているそうです。
 
そして、本講演の議題であった、
「どうやって支出を削減するか?」について様々な角度から提言いただきました。

「入院で対応している内容を外来でできないか?」

「地域の医療で重複している検査を地域連携することで一元化できないか?」

「患者さんの病院間の紹介、逆紹介に必要な紙ベースの書類を通常カルテで行っている電子カルテ化し無駄を省くことはできないか?」

「地域の病院で共有できるデータは共有し、支出を削減するべきではないか?」

「病院は本来患者さんを治療してご自宅に帰す装置でなくてはならないのに、医者は病院維持に奔走して自宅に戻すことを忘れていないか?」

講演会の結びに「地方行政にしかできない、 子育て支援とアクティブシニア支援をお願いします。」とご挨拶され、我々、地方議員に対して未来に向けての行動を促してくださいました。

お二人の先生から半日間ご講演いただいた内容を真摯に受け止め、引き継ぎ緊急時の医療体制の強化と持続可能な医療の確保のため、尽力してまいりたく思います。