『第15回地域医療政策セミナー』が麹町の都市センターホテルにて開催され、日本全国から地方議員が集まりました。



主催は全国自治体病院経営市議会協議です。

講演は
①「患者流出>流入 医療圏におけるイノベーション~目指すべき方向の明確化とPFIの活用~」

八尾市立病院総長 星田四郎 先生



②「超高齢社会に求められる地域医療のかたち」

医療法人社団 悠翔会 理事長・診療部長 佐々木淳 先生

の2講演です。

①「患者流出>流入 医療圏におけるイノベーション~目指すべき方向の明確化とPFIの活用~」

八尾市立病院総長 星田四郎 先生 講演では、

通常、全国の公立病院は不採算な治療も引き受けなくてはならず、赤字で運営している現状ですが、PFIを活用し、公立病院を黒字化した取り組みについて教えていただきました。

八尾市立病院は大阪の中河内二次医療圏にあり、地政学的に患者さんが流出しがちな地区です。

八尾市立病院は経営改革をすることにより、地域医療に貢献し、平成30年に自治体立優良病院表彰(総務大臣表彰)を受賞しました。

この表彰は経営努力がなされた結果、経営の健全性が確保され、地域医療の重要な役割を果たしてることが評価された表彰で、
大阪府内の公立病院としては初めての受賞でした。 

八尾市立病院は経営状況を分析し、
1急性期医療、
2周産期医療、地域医療
3ガン診療、
へと進むべき方向を明確化しました。

1、急性期医療では、積極的な救急患者の受け入れに務め、「断らない医療」への取り組みを進めることにより、救急隊との信頼関係を良化しました。

また循環器急性期疾患に取り組んだり、糖尿病センターを設置し、二次医療圏内でのシェアを上げてきました。

2、周産期医療ではNICUを設置しハイリスク分娩への対応を進めてきました。

地域医療では「地域医療支援病院」の承認を受けました。

3、がん診療では、医師数を確保しつつ、高度医療機器(リニアック等)を整備しました。 
放射線治療装置を定位放射治療が可能な装置(リニアック)にしたり、外来化学療法を充実させ、平成27年に「地域がん診療連携拠点病院」に指定されました。

ガン治療に積極的に取り組むことにより、外来診療単価や入院診療単価を上げ、
病床稼働率を上げ、平均在院日数を短くすることにより経営の黒字化を図りましました。

経営の民間活力導入として、民間の資金・経営能力・技術力を活用するPFI事業を選定し、施設の維持管理と医療関連サービスを民間で賄うことにより運営コストを圧縮しました。

このことはPFI事業の成功事例として全国的にも評価されています。

八尾市立病院の維持管理・運営事業のみを行う目的の、SPC(特別目的会社)を、ニチイ学館、関電ファシリティーズ株式会社、三菱商事、日本医学臨床検査研究所の出資で設立しました。

SPCは協力企業を取り纏め、病院と一体となり病院運営にあたります。

「病院経営」と「地域医療の充実」という一見すると相反する関係を、民間活力導入で高次元でバランスをとり、両立させ、新たな手法で公立病院の役割を充足させている八尾市立病院から多くのことを学べました。

2項目目の講演は、
②「超高齢社会に求められる地域医療のかたち」

医療法人社団 悠翔会 理事長・診療部長 佐々木淳 先生

です。


医療法人社団 悠翔会は在宅医療に特化した医療法人で、「機能強化型在宅療養支援診療所」を東京近郊に12ヵ所展開し、
24時間365日体制で4500人の患者の在宅医療を支援しています。

2025年には5人に1人が75歳以上となり自宅で最期を迎える時代を見据え、
佐々木先生は開業医や介護施設を巻き込み、在宅医療というインフラづくりに取り組んでいます。

人はいつか必ず年を取り、治らない病気や障害を抱えるのであり、

超高齢社会を迎えた日本での医療者の大きな役割は、
治らない病気や障害があっても安心して暮らせて、自分の人生を生き切れる環境を作ることだと佐々木先生は考えました。




高齢者にとって大切なことは、薬物療法の適正化と食べることだそうです。



「薬に頼りすぎない!」
ほとんどの高齢者は薬を飲まされ過ぎていて、かえって健康を害している。

「食べること!」
食事量が低下し、低栄養化となると肺炎も骨折もリスクが上がる。
低栄養では死亡リスクが4倍にもなります。


食べる力は生きる力で、高齢者は太ってる方が長生きであり、
高齢者にとって必要なのは生活習慣病の予防ではなく、カロリーとたんぱく質であり、低栄養、フレイルに気をつけ、残る人生をより楽しくすることが大切だそうです。

先生はそれまでの「人は最期病院で亡くなる」との概念を改め、地域全体で看取り力を向上させるために、在宅医療を促進してきました。



急変への対応として一般的には救急車を呼ぶことが考えられますが、
在宅での緊急往診到着時間と救急搬送され救急病院での診療開始時間を比べると、在宅の緊急往診の方が早く、在宅でも急変に充分に対応できるとのことは驚きでした。

入院要因を分類し分析すると、入院の41%は回避可能であるそうで、在宅ケアを促進することは入院日数を94%も削減します。

「人生最後に必要なのは医療ではなくケアで、看取りは医療でない」とのことで、地域医療連携は医療よりも介護が中心になって進める方が良いとのことでした。

人は「自分らしい生活人生をおくる」ことが大切で、
友達がいないと死亡率が2・5倍も増加し、生き甲斐がないことも寿命を短くします。

人間は20代をピークに少しずつ衰えていくことから、「人生の目的は認知症の進行を遅らせる」ことであり、社会との繋がり、生き甲斐によって寿命をのばすことが出来るそうです。

それには現在のような社会環境化で高齢者となっても、新しい家族関係、多世代合流、新しい役割を創出することが大切です。



在宅医療の促進により、病気になっても高齢になっても最期まで安心して暮らし続けられる地域の創出のため尽力されている佐々木先生の講演は、ユーモアも交えながらも現在の日本の医療介護が抱える課題を深く抽出し、
既存の価値観を一変するお話しで大変勉強になりました。