刀夜は自分の手を引いて歩く雅を見て少し頬を赤めていた。
前を歩く人物が素敵に思えてしょうがないのだ。
困った時に助けてくれるなんて、そう、まるおとぎ話の王子様のようではないか。
…なんて都合の良いようには解釈はしない、単にカッコイイと思ったのだ。
刀「桜野、さっきは…ありがとう」
すると雅は足を止めて、刀夜を見た。
そして深ーく溜息を付いた。
雅「まったく… 心配掛けさせないでよ」
刀「ご、ゴメン 黒静が来るなんて思わなくて」
刀夜が申し訳無さそうな顔をしていると、雅は彼女を握る手の力を強めた。
そしてもう片方の手で刀夜の頬をムイッと摘まんだ。
刀「…ふぇ?」
雅「危ないと思ったら逃げないと、キミは女の子なんだよ?」
刀「でも、黒静はカズキの友達だし…」
雅「友達でも家族でも他人である事に変わりは無い、僕だって同じだ」
刀「桜野は僕を助けてくれた」
雅「っ…」
刀夜は雅の手を握り返して、彼の顔を覗き込むように見上げた。
前髪の間から見える澄んだ瞳が雅の心を捉える。
目が合った瞬間、胸が締め付けられるような思いがした。
刀「自分の身は自分で守れるから大丈夫だよ、次は気をつける」
雅「……」
そう言って雅の手を離した。
雅はそんな彼女に笑顔を見て、胸に何かが突き刺さるような感じがした。
本当は、彼女の安息など望んではいけない筈なのに。
しかし今頃後悔しても、もう遅い。
雅は “恋”というどんな麻薬よりも厄介なものにハマってしまったのだから。
刀「教室戻ろうかw」
そんな彼女の笑顔が眩しかった。
東「あっ黒静!何処行ってたんだよ!!探したんだぞッ?」
黒「悪い… ちょっと野暮用を思い出してな」
佐「珍しいわね、黒静が単独行動なんて」
八「そうか?コイツしょっちゅういなくなるじゃん」
彩「何にしても見付かってよかったね、教室戻ろうか?」
東「そうだなっww」
カズキの無邪気な笑顔を見て、黒静は目を細めた。
彼は刀夜と雅を危険視しているが、彼女は違う。
彼女等を怪しむような素振りは全く見せない。
黒「カズキ、放課後如月刀夜に会いに行くのか?」
東「んー、多分な」
黒「俺も一緒に行く」
東「何で?もしかして刀夜に惚れた?」
黒「違う」
八「あっ 俺も行くぞカズキ!刀夜に会えるチャンス!!」
彩「私も行きたいな」
佐「右に同じ」
東「はははwじゃあみんなで押し掛けるかっ」
カズキ達は楽しそうだったが、黒静は険しい表情を見せていた。
黒「(今は情報を集めるしかない…)」
闇より深いような場所で、雅は鬼の頂点となる鬼王の前で跪いた。
鬼王は老人のような姿をしていて、とても生きているなんて思えない。
しかし地鳴りのような呼吸をして、目を泳がせている。
「………雅… 何処にいる」
雅「此処におります、鬼王様」
鬼王はまだ完全には復活していなかった。
その為、視力が赤ん坊以下、10cm先のモノすら見えない。
それでも手を動かして、雅の頭に手を置いた。
そして子供を宥めるように、優しく撫でた。
「今や我が子はお前のみ… 頼りにしているぞ」
雅「…はい」
雅はその手の感触を感じて、何とも言えないような悲しい気持ちにさせられた。
この人の頼れる鬼は、今や自分しかいない。
でも彼は、鬼王の宿敵・鎖姫を好きになってしまったのだ。
それが胸を潰すような罪悪感を生んだ。
「早速だが、お前に頼みがある」
雅「何でしょう」
「鎖姫の、側近を数人連れて来い」
雅は「は?」という顔で鬼王を見上げた。
鬼王は薄っすらと不気味な笑みを浮かべている。
鳥肌が立つような冷たい笑みだった。
「兄弟がいないのは寂しい事だ お前に弟と妹を作ってやる」
雅「…鬼化させる気ですか?」
鬼化というのは文字通り、普通の人間を鬼にする行為だ。
鬼殺生や天生・地生、彼等も元は普通の人間で、鬼王の手によって鬼になった者だ。
「嫌か?」
雅「い、いえ」
「それとも、お前には出来んか?」
雅「!」
雅は今日見た刀夜の笑顔を思い出した。
刀夜の側近という事は、刀夜の友達という事。
その友達とは、あのカズキ達以外いない。
もしカズキ達が鬼になったら、刀夜は傷付くだろう。
それこそ、今までの鬼に傷付けられた時よりずっと深い傷が…
そんな事したら、刀夜はもう笑う事も出来ないかもしれない。
雅の心は揺れていた。
「お前の、好みの者を連れて来い 明日だ」
雅を撫でている手に力が入った。
それが恐ろしくて、彼の額から汗がにじみ出ていた。
雅はギリッと奥歯を噛んだ。
雅「……はい」





