こんにちは、GENRYUです![]()
早速ですが、あなたに質問です。
・急に肩が挙がらなくなって、日常生活に支障をきたしている
・背中に手を回すと、肩の痛みが強くなり動かせない
・肩をもんでも痛みが改善せず、痛くて動かせない
このような肩に痛みに対して考えないといけないのは、
より緻密な評価とアプローチが求められるということです。
肩関節の運動は、一見単純なようでいて、実は非常に複雑な複合運動です。
単一の筋肉や関節だけを見ていては、本質的な改善には至りません。
今回、肩シリーズとして、肩関節可動域改善のメソッドに基づき、
その背景にある理論と具体的な実践方法を、
全3回にわたって徹底的に深掘りしていきます。
第1回目となる今回は、肩関節屈曲制限の改善において、
最初の突破口となる「1stポジション(下垂位)での外旋可動域獲得」に
焦点を当て解説していきます。

なぜ、腕を上げるために「腕を下ろした状態での外旋」が必要なのでしょうか?
その鍵を握る「前上方組織」とは具体的に何なのでしょうか?
第1章
肩関節運動の全体像と「制限」のメカニズム
具体的なアプローチに入る前に、まずは肩関節運動の全体像を再確認しましょう。
木を見て森を見ずとならないよう、マクロな視点を持つことが重要です。
1. 「肩関節」は一つではない:複合体としての理解
私たちが普段「肩関節」と呼んでいるものは、解剖学的には
肩甲上腕関節を指すことが一般的です。
しかし、実際の機能的な「腕を動かす」という動作においては、
肩甲上腕関節単体の動きでは成立しません。
肩関節運動は主に以下の3つの関節の連動によって構成されます。
①肩甲上腕関節
上腕骨頭と肩甲骨関節窩からなる球関節。
②肩甲胸郭関節
肩甲骨と胸郭(肋骨面)の間で生じる機能的な関節。
③胸鎖関節
胸骨と鎖骨をつなぐ、上肢帯と体幹をつなぐ唯一の骨性連結。
(※補足:これらに加えて肩鎖関節も関与しますが、
主動作においては上記3つが特に重要です)

これらの関節が、あたかも歯車のように噛み合って連動することで、
はじめてスムーズで大きな可動域が実現します。
これを「肩甲上腕リズム」と呼びます。
逆に言えば、「それぞれの関節運動に制限があることで、
肩関節全体の可動域制限となる」のです。
肩甲上腕関節だけをいくら徒手的に動かしても、
肩甲胸郭関節や胸鎖関節がロックされていれば、腕は上がりきりません。
2. 肩関節屈曲・外転における連動のルール
【肩関節屈曲】(肩を前から上に挙げる動き)

細かい動きは覚えなくてOKです。
①肩甲上腕関節
屈曲に伴い「内旋位から徐々に外旋」していく。
②肩甲胸郭関節
肩甲骨は上方回旋・後傾しつつ「内旋から約120°付近で外旋へ」と転じる。
③胸鎖関節
鎖骨は「後退・挙上・後方回旋」する。
【肩関節外転】(肩を外から上に挙げる動き)

細かい動きは覚えなくてOKです。
①肩甲上腕関節
外転に伴い「外旋位から約120°付近で内旋へ」と転じる
(※諸説ありますが、初期の外旋が重要)。
②肩甲胸郭関節
肩甲骨は「外旋・上方回旋・後傾」する。
③胸鎖関節
鎖骨は「後退・挙上・後方回旋」する。
臨床上問題となりやすい屈曲・外転動作において、
これらの複雑な連動が必須となります。
つまり、肩関節の動きを改善するためには
各関節がこれらの構成運動を行えるだけの「遊び(Joint Play)」と
「滑走性(Gliding)」を持っているかを評価し、
アプローチする必要があるのです。
第2章
なぜ1stポジション外旋が屈曲制限の鍵なのか?
それでは、本題に入りましょう。
なぜ、肩関節屈曲(腕を前に上げる動作)の制限に対して、
1stポジション(腕を下垂した位置)での外旋可動域が必要なのでしょうか?
1. 衝突を回避する「クリアランス」のメカニズム
最大の理由は、肩甲上腕関節の構造的な宿命にあります。
上腕骨頭の外側には、棘上筋や棘下筋が付着する
「大結節」という隆起があります。

一方、その直上には肩甲骨の「肩峰」が屋根のように覆いかぶさっており、
その間には強靭な「烏口肩峰靭帯」が張っています。

この空間を**「肩峰下(けんぽうか)スペース」**と呼びます。

もし、上腕骨が「内旋位のまま」単純に屈曲や外転をしていくと、
どうなるでしょうか?
隆起している大結節が、比較的早い段階で肩峰や烏口肩峰靭帯と
物理的に衝突(インピンジメント)してしまいます。
これでは骨性のロックがかかり、腕はそれ以上挙がりません。
これを回避するために、人体は巧妙なメカニズムを持っています。
それが「屈曲(外転)に伴う上腕骨の外旋」です。
上腕骨が外旋することで、大結節は後方へと退避します。
これにより、大結節が肩峰下の一番狭い部分を
「すり抜ける(通過する)」ためのクリアランス(隙間)が確保され、
最終域までスムーズに挙上できるようになるのです。
2. 「1stポジション外旋」が示す意味
では、なぜ「1stポジション(下垂位)」での評価が重要なのでしょうか?
1stポジションは、解剖学的に肩関節の関節包や靭帯が
比較的リラックスしている肢位です。
しかし、肩関節周囲炎(五十肩)や術後の拘縮肩では、
このリラックスしているはずの肢位ですら、
組織が癒着・短縮し、動きが制限されています。
特に、1stポジションでの外旋を制限する主要因は、
肩関節の「前上方」に位置する組織群です。
もし、最も負荷の少ない1stポジションでさえ十分に外旋できないのであれば、
屈曲運動というダイナミックな動きの中で、適切なタイミングで
外旋を行うことなど到底不可能です。
つまり、「1stポジションでの外旋可動域獲得は、円滑な屈曲運動を
実現するための絶対的な前提条件(ミニマム・リクワイアメント)」と言えます。
ここをクリアせずして、機能的な挙上動作の獲得はあり得ません。
第3章 解剖学的ストレッチアプローチ
1stポジションでの外旋を制限する「前上方組織」。
これらは深部にあり、互いに癒着しやすいため、
漫然としたストレッチではなかなか伸びてくれません。
ここでは、解剖学的な特徴を踏まえ、ターゲット組織にピンポイントで
伸張刺激を加えるための具体的なストレッチ方法をご紹介します。
ターゲットは以下の3点です。
棘上筋前方線維と肩峰下滑液包(SAB)


烏口上腕靭帯(CHL)

上腕二頭筋長頭腱・短頭・烏口腕筋周囲の筋間組織

❶ 棘上筋前方線維と肩峰下滑液包狙い撃ちストレッチ
棘上筋、特に腱成分が厚い「前方線維」は、上肢が身体の前側にある
(内旋・屈曲気味)と短縮します。
逆に、腕を後ろに引いて内側に入れる(伸展・内転)と最もストレッチされます。
この動きは、癒着したSABを引き剥がす刺激にもなります。
【セルフストレッチ:結帯動作ストレッチ(伸展・内転方向)】
・ポジション
立位または坐位になります。
動作: 患側の手を腰の後ろ(仙骨のあたり)に回します(結帯動作の肢位)。
手の甲が背中に触れるようにします。
・ストレッチ
健側の手で、患側の手首または肘を持ちます。
患側の腕を、体の中心方向(内転方向)かつ、背中から離す方向(伸展方向)へ
ゆっくりと引いていきます。
肩の前上方(奥の方)に伸びる感覚があれば正解です。
痛気持ちいいところで20〜30秒キープします。

・注意点
体が捻じれないように、体幹は正面を向けたまま行います。
激痛が走る場合は、癒着が強すぎる可能性があるため、無理に行わせないでください。
❷ 烏口上腕靭帯(CHL)ダイレクトストレッチ
CHLは、腕を下げた状態での外旋(1st外旋)を制限する
「革ベルト」のような強力な靭帯です。
これを伸ばすには、シンプルですが「正確な1st外旋ストレッチ」が最も有効です。
【セルフストレッチ:壁を使った1st外旋】
・ポジション
壁の横に立ちます(患側を壁側にする)。
・準備
患側の肘を90度曲げ、脇腹につけます(これが1stポジションです)。
手のひらを上に向け、壁に手を当てます。
・ストレッチ
重要:脇が開かないように、肘を体幹にしっかりと固定します
(タオルを挟むと意識しやすいです)。
肘の位置を動かさないまま、体をゆっくりと壁とは反対方向へ捻(ねじ)っていきます。
結果的に、腕が体に対して外旋される形になります。
肩の前側(特に烏口突起周囲の深部)が突っ張る感覚があればOKです。
20〜30秒キープします。

注意点
代償動作として、肩がすくんだり、体が後ろに反ったりしないように
注意深く指導してください。
❸ 前方深部組織(上腕二頭筋・烏口腕筋・筋間)の一括ストレッチ
上腕二頭筋長頭・短頭、烏口腕筋は、肩関節の前方を走行します。
これらの筋肉そのものの短縮や、それぞれの筋肉の間の癒着は、
肩関節を内旋・屈曲方向へ引っ張り、外旋を制限する要因になります。
これらをまとめて伸ばすには、「肩関節伸展」の要素を強調したストレッチが有効です。
【セルフストレッチ:壁を使った肩関節伸展】
・ポジション
壁を背にして立ちます。
・準備
患側の手のひらを壁につけます(指先が下、または後ろを向くように)。
肘は伸ばします。
・ストレッチ
手の位置を変えずに、ゆっくりと体を前進させる、または膝を曲げて体を沈めていきます。
腕が体の後ろに取り残される形になり、肩関節が伸展されます。
肩の前側から力こぶ(上腕二頭筋)にかけて伸びる感覚を
感じながら20〜30秒キープします。

応用(外旋の要素を加える)
余裕があれば、この姿勢から少し体を壁と反対側へ捻ると、
外旋の要素が加わり、より前方の筋間組織にストレッチがかかります。
まとめ:第1回のポイント
今回は、肩関節屈曲制限の改善に向けた第一歩として、「1stポジション外旋」の重要性と、それを制限する「前上方組織」へのストレッチアプローチを深掘りしました。
【重要ポイントの整理】
肩関節運動は肩甲上腕関節、肩甲胸郭関節、胸鎖関節の複合運動であり、
どこか一つでも制限されれば全体の制限となる。
屈曲運動において、大結節のインピンジメントを回避するためには「外旋」が必須である。
1stポジションでの外旋は、屈曲運動を行うための最低条件である。
1st外旋制限の主因は「前上方組織(棘上筋前方線維、肩峰下滑液包、
烏口上腕靭帯、筋間中隔)」の癒着・短縮である。
アプローチの鍵(ストレッチ編):
・棘上筋・肩峰下滑液包
「伸展・内転」方向への結帯動作ストレッチで引き伸ばす。
・烏口上腕靭帯
代償を封じた正確な「1st外旋ストレッチ」でダイレクトに伸ばす。
・前方筋間組織
肘を伸ばした状態での「肩関節伸展ストレッチ」でまとめて伸ばす。
臨床において、屈曲角度が上がらない患者さんに対し、
漫然と腕を上げるストレッチを繰り返していませんか?
もし1stポジションでの外旋が制限されているなら、
まずはそこをクリアにしなければ、何度挙げようとしても
骨性のロックに阻まれてしまいます。
今回ご紹介した、ターゲットを絞り込んだストレッチを、
ぜひ実践してみてください。
深部の組織がリリースされ「腕がスッと上がる感覚」を引き出せるはずです。
次回は、第2弾として、肩関節「外転」制限の鍵を握る
「2ndポジション外旋」と、肩甲胸郭関節の動きに関与する
「前下方組織(小胸筋など)」へのアプローチについて、
同様に深掘りしていきますね![]()
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それではまた、次回のコラムでお会いしましょう![]()
