「私にはわからなかったな。里沙はそばにいたから佑月のことを知ってるんだね」

 

 里沙の口元が緩んだ。里沙は、佑月の特別な存在になりたかったんだね。

 

「だから、佑月がホストにハマってるって知ったとき、ちょっと嬉しかったんだ。ああ、佑月も人間っぽいところがあったんだ、男に貢いじゃうような弱いところがあったんだーって。ははは! しかも自殺しちゃうほどホストにのめりこむなんてね。そこまで好きなら教えてくれれば良かったのにさ。そしたら仲良くなれたかもしれないのにねー」

 

 頬がまだらに赤くなった里沙は、私の肩に頭をこつんと乗せて「酔ったー」と言い、左手首に巻かれたゴールドの細い時計を見た。

 

「あ! もうこんな時間だ! よーし。お店に行くよー。ここは私のおごり!」

 

 割り勘にしようという私の声を遮り、里沙は数千円の会計をカードで支払った。ふらつきながら、きゃっきゃとはしゃいでいる里沙の後ろを歩いていく。

 

 歌舞伎町を歩いたことはもちろんある。でも今日はこれまで見たことのある景色とは全く違うように感じる。

 

 ミニスカートの女の子が金髪の男の子と大声で話している姿。化粧の濃いお姉さんのカツカツというヒールの足音。不良っぽい男の子が通り過ぎる女の子を物色している目線。一人一人が、歌舞伎町じゃないと存在できない理由を持っているような気がした。

 

 ごちゃごちゃと乱れる街の中を奥に進む。私も周囲から見たら歌舞伎町の人間に見えるだろうか。転びそうになりながら、そのたびにバカみたいな大声で笑っている里沙を、歌舞伎町が吸い込んでいった。