「私は嫌いだった」

 

 少し怒りが含まれているような声だった。

 

「里沙は仲良かったじゃん」

「表面だけだよ。佑月は人間離れしたルックスだからさ、一緒にいたら目立つでしょ。もしかしたら佑月目当ての芸能関係者のおこぼれがあるかもって。ま、結果は全然だったけどね。逆に佑月の引き立て役だったわ」

 

 再びビールを流し込む。里沙がそんな打算的な気持ちで佑月と一緒にいたなんて知らなかった。傍から見たら、憧れのお姉ちゃんの背中をいつも追いかけている可愛い妹のように見えていた。

 

「私がいくら悩みを打ち明けても、友達の文句を言っても、彼氏の愚痴を言っても、佑月はいつも『そうか、うんうん』って言うだけ。肯定もしなければ否定もしない。それに自分のことはいっさい話してくれなかった。どれだけ一緒に過ごしても、一度も心を開いてくれなかった」

 

 里沙は生ビールのグラスの奥のほうを見つめた。きっと里沙も佑月に憧れていたのだろう。不器用で子供だから、悪口で佑月に近づこうとしていたんだ。

 

「佑月は自分のことを完璧だって知ってる人。佑月は悩みなんてない人。人の痛みのわからない人。感性の鈍い人。綺麗なのは見た目だけ。心は冷たい氷みたいな人」

 

 里沙が佑月のことを酷く言うほど「大好きだった。憧れていた。追いかけていた」って聞こえた。