「そうだよね。ごめんごめん。ホント、私デリカシーなくて。考えてみたら、私もコンプレックスなんて聞かれたらイヤだわ。そんな質問ダサいなって思う。ホントにごめん。この通り!」

 

 なんこんなに謝るんだろうってくらい、大げさに何回もごめんねって言った。心なんてこもってない。たくさん謝っていつの間にか佑月が罪悪感を抱けばいいって思ったんだ。本当に私って嫌なやつ。なのに、私の声は震えていた。

 

 焦っている私の手を、急に佑月が握った。ハッとした。華奢でふわふわとした手のひらを想像していたけれど、意外にも大きくて皮膚の分厚い手のひらが私の手を包んだ。

 

「謝らなくていいよ。藍ちゃんはなにも悪いことしてないよ。藍ちゃんは繊細だな」

 

 そんなことない。繊細なんかじゃない。私は意地悪で言ったんだ。佑月は私から目を離さずに続けた。

 

「私のこと綺麗って言ってくれてありがとう。藍ちゃんもすごく可愛いよ。初めて会った時から、子猫みたいに可愛くうらやましいって思ってたんだよ」

 

 佑月の手が私の手から離れた。私の頭の中はいろんな感情がどっと押し寄せて、心臓のドキドキが止まらないし、瞬きも忘れるくらい動揺していた。酔っぱらっていることも手伝ってか、今度はなぜだか涙が溢れてきた。バカすぎる自分のせい? 優しすぎる佑月のせい?

 

「え、藍ちゃん。どうしたの。私、なんか悪いこと言った? 大丈夫? 次で一度降りようか?」

 

 圧倒的に負けてる。私はクズだ。今のままでは絶対に佑月に勝てない。いや、勝てなくてもいい。せめて近付きたい。私の思っていることが伝わったのかわからないけど、佑月が今度は私の頭をなでた。

 

「ごめん」

 

 今度は心から謝った。

 

「だから、藍ちゃんはなにも悪いことしてないよ」

 

 佑月はそう言うと、私の頭を腕に抱えて肩に乗せた。好きな男の子にそうされているような恥ずかしさと共に、ずっとこうしていてほしいという安心感。私は黙ってそのままでいた。

 

「そうだ。藍ちゃんが泣いてる顔、撮っちゃお」

 

佑月がスマホを構えた。

 

「やだ、やめてよ」

 

 カシャリ。「可愛いよ。あとで送っておくよ。私と藍ちゃんの初めてのツーショットだよね」そう言うと、佑月は私の頭から手を離し、つり革を掴んだ。その後はだまって窓の外の景色を見つめていた。その横顔は、相変わらず綺麗で完璧。電車の窓に映る、お月様と同じくらい尊い。