演技指導を務めるという講師が稽古場に入ってきて簡単に挨拶し、生徒一人一人が自己紹介をすることになった。高校を卒業したばかりだという子がほとんど。あとは大学を卒業した人、社会人になったけど、夢を諦められなくてここに来たという人もちらほら。すでに読者モデルとして雑誌に出ていたり、ドラマにちょい役で出演したことのあるという人もいた。私の順番が回ってきた。

 

「田中藍です。今年、地元の短大を卒業して東京に出て来たばかりです。お芝居の経験は全くありませんが、子供のころからドラマや映画が好きで、ずっと憧れていました。東京のことも、お芝居のことも、わからないことだらけですが、どうぞよろしくお願いいたします」

 

 パラパラと拍手が起きた。当たり障りのない、なんの個性も魅力もない挨拶。少し平凡過ぎただろうか。でも、「自分のことを可愛いと思っている」とか「地元の友達からは絶対に女優になれるって言われて」なんて自己紹介をして、悪目立ちするよりもマシかな。その後は、私同様の平凡な自己紹介が続いた。そして彼女の番が来ると、教室の空気がピンと張りつめた。