家に帰って自分の部屋に閉じこもると、
引き出しの奥に仕舞っておいたママからの手紙を取り出した。
そして、離れて初めてママに電話をかけた。ハローマイママには悪いけど、やっぱり本物のママが1番だ。
ママは電話に出ると、すぐに会おうと言ってくれた。
家を出るとき、動かないハローマイママの姿を横目でちらっと見た。
「ごめん」と小さな声でハローマイママに向かって呟いて、ボクは出発した。
待ち合わせ場所で待っていると、ママが涙を目に浮かべながらボクのところにやってきて、
ママが暮らすアパートに連れて行ってくれた。
アパートに入ると、ボクは部屋を見渡した。リビングのほかに部屋が2つあるみたいだ。
そこまで広くはないけど、もしボクがここに引っ越してきたとしても問題なさそうだな、と勝手に心の中で思った。
ママはボクをソファに座らせてその隣に自分が座った。
そして「寂しい思いをさせてしまってごめんね」と抱きしめてくれた。
やっぱり本物のママのぬくもりは最高だ。ボクはママのお腹に思いきり顔をうずめた。
するとママが言った。
「そうだ。ヒュウガに会わせたい人がいるのよ」
ボクが顔をあげるとママは優しい微笑みをボクに向けて、
それから奥の部屋に目を移した。
「ハローマイキッズ、こっちにおいで」
ママがそう言うと、扉が開き、ボクと同い年くらいの男の子が顔を出した。
ハローマイファミリーシリーズのAIロボットだとすぐにわかった。
ハローマイキッズは、無邪気な笑顔でこちらに走ってきた。
そして、ボクを突き飛ばしてママに抱きついた。
「あらあら、甘えん坊なんだから」
ママの笑顔は、床に倒れたボクではなく、ハローマイキッズに向けられていた。
その後、ボクは仕方なくパパの元に戻った。
それから10年……。
高校を卒業すると、ボクは逃げるように家を出た。
今は美しい恋人「ハローマイハニー」と一緒に暮らしている。
パパはあの後、リナさんと再婚したけど、また別れて、今は新しいハローマイママと暮らしているそうだ。
ママもそう。ハローマイキッズをもう一体購入したのだと風の噂で聞いている。
ボクもそろそろハローマイベイビーを買うつもりだ。
2050年、現在。日本国民の8割以上の人が人間の家族と別れて、
「一生裏切らない家族」ハローマイファミリーと暮らしている。