ある日、私は1万円札をトランプみたいにテーブルに並べて缶ビールを飲んでいた。

テレビには、ダンガンシュートの姿だけが永遠に流れ続ける。

大金とテレビを交互に見ていたら、無性に正太郎ちゃんに会いたくなってきた。お金はけっこう貯まっている。

気づくと、携帯を持つ指が勝手に動いて、LINEを送っていた。

 

「妊娠したみたい」

 

なんでいきなりこんなメッセージを送ったのかわからない。

お金を持ったことで一丁前に承認欲求のようなものが生まれたのだろうか。

 

私はなんだかわくわくしていた。

優しい正太郎ちゃんのことだから、ビックリして飛んでくるだろうって思った。

息を切らしてやってきた正太郎ちゃんに「ウソだよ」って言ったら大笑いするかもしれない。

もし妊娠を喜んでくれたらどうしよう。「今度は本当に赤ちゃんつくろう」って言えばいいかな。

それってすごくいい。気持ちがどんどん舞い上がってきて、正太郎ちゃんの返信をまたずにLINEを続けて打った。

 

「最近の活躍しっかり見守ってるよ。やっと正太郎ちゃんの努力が報われるね。絶対に正太郎ちゃんはブレイクするって信じてます。ブレイクしたら、結婚できるかな。私、いっぱいお金をためて待ってるし、ずっと応援してるから安心してください」

 

結婚は気が早いかな? 

正太郎ちゃんのリアクションを想像していたら、笑いが込み上げてきた。

 

「へへへへ」

 

しばらくすると正太郎ちゃんから返信が画面に浮かび上がった。

 

「俺の子じゃないんじゃない?」

 

正太郎ちゃん。どういう意味? もしかして、怒ってる? 急いでLINEを打つ。 

 

「正太郎ちゃん、冗談だよ。最近、ぜんぜん会いに来てくれないから、ちょっとビックリさせたかったの」

 

そのメッセージは永遠に既読にならなかった。

 

正太郎ちゃん、どうして?