正太郎ちゃんが帰ると、私は正太郎ちゃんが眠ったベッドのシーツと枕をはいで、丁寧にたたみ、紙袋に入れ、押し入れの1番上の段にしまった。

 

その日から、正太郎ちゃんは頻繁に私の部屋に来るようになった。そのときは必ず酔っぱらっていた。

あるとき会社から帰ると、正太郎ちゃんが嘔吐物にまみれて、アパートの前で倒れていたことがあった。

私はビックリして正太郎ちゃんの肩を揺さぶった。

 

「正太郎ちゃん! 正太郎ちゃん!」

「ああ、佳代ちゃんだぁ。佳代ちゃんに会いたくてね、駅前で飲んでたんだけどさあ。お金がないのに気づいてね。お店に免許証おいてきたのー。あとで払いに行くって店の人に言ってきたのー」

「どこのお店?」

「駅前のお店~」

 

私は走って駅前の居酒屋に出向き、支払いをした。こういうことは珍しいことではなかった。

アパートの前で倒れられてはほかの住民に迷惑になる。もっと自由に出入りしてほしいという気持ちもあって、私は合鍵を作って渡した。

 

「え、合鍵? いいよいいよ。いらないよ」

「でも、連絡なしで来たときに、私がいなかったら待つことになっちゃうから。冬は寒いし、夏は暑いから」

「そっかぁ。ありがとう」

 

その後は、帰宅して扉を開くと、部屋の中にはビールを飲みながら、テレビを見てる正太郎ちゃんがいたり、いなかったりした。

私はめったにお酒は飲まないけど、正太郎ちゃんのために缶ビールや焼酎、ウィスキーなど、いろんなお酒を部屋に置くようになった。

 

「佳代ちゃん、おかえり」

 

連絡はないから、いつも扉を開くときにドキドキする。

今日は正太郎ちゃんがいますようにって、毎日願いながら帰宅した。

 

正太郎ちゃんは甘えながら「お金貸して」って、私に触れてくる。私はいつも笑顔で「いいよ」って答える。

だいたいいつも1万円くらい。家賃が払えないからって10万円くらい貸したこともあったかな。

でも、自分のために使うお金なんてほとんどないから、ぜんぜん大丈夫。

 

「応援する」って言ったけど、本当は正太郎ちゃんが売れませんようにって、心のどこかで思っていた。

たぶん、正太郎ちゃんがお笑いで成功したら私のそばからいなくなるよね。

 

私は心に花が咲いたみたいになっていた