「ごめんねえ。人ん家で吐いちゃって。俺さあ、酔っぱらってて昨日の記憶が結構ないんだよね。ここ、佳代ちゃん家だよね。なんでここにいるんだろうか。マジで、ご迷惑おかけしました」
正太郎ちゃんトイレから出てくると、頭をかきながら謝った。
「迷惑なんてかかってないよ。今日は仕事休みで、用事ないし。体調が良くなるまでゆっくりしていってね。あの、私、朝食作るから、もしよかったら食べてね」
「朝食? マジで。ありがとう」
正太郎ちゃんは私がいつも座ってるピンクのクッションに座り、部屋の中をきょろきょろと見ている。
「どうぞ」
「うわ。なにこれ、旅館の飯みたいじゃん」
「そんなこと……」
「いただきまーす。お、うま! こんなちゃんとしたご飯食べるの、めっちゃ久しぶりだよ。二日酔いが吹き飛んだわ。うまー!」
白いご飯をかき込む正太郎ちゃんを見ていたら、私は胸がまた熱くなってきた。
「うれしい。正太郎ちゃんがハンバーグ好きって言ってたから、次はハンバーグ作るね」
「え、あ、うん」
あれ? 不思議そうな顔してる。そうか、この人は昨日のこといっぱい忘れてるんだ。
「正太郎ちゃんはお笑い頑張ってね。私、できることならなんでもするからね。いつでも頼ってね」
「え、ああ、ありがとう」
お礼を言うと、正太郎ちゃんは、箸をテーブルに置いて正座した。
そして、右手と左手の手のひらを合わせ、申し訳なさそうな顔をして言った。
「金貸してくれない?」
私とは人間のジャンルが違うカッコいい正太郎ちゃん。そんな情けない態度、似合わないよ。
給料日には毎月決まった金額を銀行から引き出して、封筒に入れ、押し入れの中に仕舞っている。
まだいくらかあるはず……。押し入れの中の封筒を覗くと、1万円だけ残っていた。
正太郎ちゃんの役に立つなら……。