正太郎ちゃんがトイレに行くと、
「ああなっちゃうと面倒だから先に3人で帰っちゃおう!」
と優人くんが言った。
「え、大丈夫なの? 可哀想だよ」
って私。
「大丈夫、大丈夫。いつも先に帰っちゃうのがお約束っていうか。正太郎ちゃんにとってはネタになるから気にしないで」
優人くんは優しい声で変なことを言ってる。
「私、帰る」
同僚が優人くんの肩に顔をのせながら言った。
「えと、心配だから待ってる。正太郎ちゃんすごく酔っぱらってるし。トイレから出てきたら、駅まで送ってあげようと思う。だから、2人は先に帰っていいよ」
いつも人の言いなりなのに、自分でも信じられないような言葉が出た。
「正太郎ちゃんは酔っぱらうとホントにしつこいから。適当に帰っていいからね」
そう言い残すと、優人君と同僚は本当に帰ってしまった。
戻ってきた正太郎ちゃんは、2人がいなくなったことに最初だけ少し怒って、でもすぐ忘れたみたい。
再び、お笑いについて話しながら、大笑いしたり、時々怒ったり、少し目に涙を浮かべたりした。
私は、今までの人生の中で1番「うんうん」って頷いた。
こんな風に2人っきりで誰かの話を聞いたのは生まれて初めてのことだと思う。
心の中はほわほわしてた。