みんながほろ酔いになってくると、隣に座っていた正太郎という人が耳元でささやいた。
「4人で別の店に行こう」
唇が耳にくっつきそうなほど距離が近い。
「会計は先輩がするから。1人ずつ、トイレのふりして出て行っちゃおうね」
私の太腿の上で、親指を立てた。
外に出ると、正太郎という人は私の隣に立った。
「佳代ちゃん、ちっさいな! 身長何センチ?」
「えとえと、150センチ、あるかないか、です」
「へー。150センチってこんなにちっさいのか。ていうか『です』とかいらないし。佳代ちゃんって礼儀正しいね」
ただの人見知りで空気読めないだけなのに。
礼儀正しいなんて初めていわれた。
「正太郎ちゃん」
これって私の意志なのかな。勝手に口が動いて彼の名前が声に出た。
「なに?」
「あの、すみません。急に」
「だからさー」
「あ、すみません。じゃなくてごめん、あの、正太郎ちゃんって、私も呼んでいいですか。あ、いい?」
「なんだそりゃ」
正太郎ちゃんが私の頭に手を乗せた。
私の体温は一気に10度くらい上昇したみたいに熱くなった。
「いいに決まってるじゃん。佳代ちゃんって面白いな。ていうかホントちっちゃいな。優人よりちっさいもんなー」
「当たり前でしょ。僕は男なんだからね」
「なにが男だからだよ。身長何センチだよ」
「ひゃくにゃくにゅうひゃひセンチ」
「それ何センチだよ!」
「ははははは!」
一緒に出てきた同僚は2人の掛け合いに大声で笑っている。
正太郎ちゃんの手はすでに私の頭から離れ、優人君の頭に置かれていた。
初めての男の人の手は熱かった