「返信が遅くなってしまってごめんなさい。実は、黒木さんと別れた後、

先輩芸人から誘われて、居酒屋を連れまわされていました」

 

嘘の文章がすらすらとスマホの画面に映し出される。

謝罪はこのくらいで10万円のことだ。

 

「家に帰ってすぐに寝てしまい、

先ほど黒木さんからもらった封筒を開けました。

お金が入っていたので驚きました。

なにかと渡し間違えたんですよね。

次に会ったときにお返ししますので、ぜひ、近いうちに飯行きましょう!」

 

よし。これで問題ないだろう。

LINEを送信すると、驚くほど早く返信がきた。

 

「10万円は間違いではありません。

正太郎さんの役に立ててほしくてお渡ししました。

少しでも正太郎さんの力になりたいと思っています。

ぜひ、受け取ってください」

 

黒木からのLINEを読んで俺は固まった。

いったい、どういうことなんだ。

ボロボロの洋服を着た俺に対しての同情?

高級料亭の料理を割り勘もできない俺への哀れみ?

10年芸人やってても全く売れる気配のない俺を不憫に思ってる?

 

いや、違う。

彼女はそんな人間じゃない。

もしかすると優人の言うように、金でしか人とつながれないのかもしれない。

あれだけの美貌の持ち主だ。ある意味、生きるのに苦労したに違いない。

 

だからこそ、この金は返さないといけない。

 

「お気持ちはうれしいです。

でも、お金なんかで黒木さんとつながりたくない。

だから絶対にお返しします。

次はいつ空いていますか?

今度は俺におごらせてください。

ビールケースに座る居酒屋だけど(笑)」

 

送信。

カッコいいこと言っちゃって。

昨日、優人との飲み代はこの封筒から払っているのに。

 

嘘を真実に変えようと思っているよ。ホントだって。