「10万円ってどういうこと? ボランティア? まさか、援助交際?」

 

俺が5杯目のウーロンハイを飲み干し、

足元がふらつきだしたところで、

優人はやっと店に到着した。

レモンサワーをちびちびと飲みながら、10万円の意味を考えている。

 

「めちゃめちゃお金持ちでお金が有り余ってるんじゃない?」

「まあ、あの感じだから金はあるだろうな」

「その上、ダメ男好き」

「ふざけんなよ、こんなイケメン捕まえて誰がダメ男だ」

 

優人の頭をぐーでゴリゴリする。

 

「痛いよー。真剣に考えてるんだからやめてよ」

「真剣に考えてダメ男ってなんだよ」

「じゃあさ、お金でしか人と繋がれない人だったりして」

「どういう意味だよ。あんなキレイな人がそんなに歪んでるわけないだろ」

「見た目は関係ないと思うけど」

「そういう病気はブスがかかるものなの」

「なにそれ、正太郎ちゃん最低」

「まあ、どことなく美人特有の影を感じるし。もしかしたら人に言えない闇を持っているのかもしれないな」

「バカみたい」

「お前なあ」

 

再び優人の頭をぐりぐり。

 

「もう、痛いよー! ていうか、僕らがここで2人で考えても答えなんて出ないよ。

正太郎ちゃんらしくさ、キレイな女の人とデートして、ご飯奢ってもらって、

お小遣いまでもらちゃってラッキーって考えたらいいじゃん。結局、そのお金だってこうしてすぐ飲んじゃってるわけだし」

 

「もしかしたら間違いかもしれないしな」

「そうだよ。家賃かなんかをカバンに入れてて、間違って渡しちゃったかもしれないよ」

「かもな」

「じゃあ、早く連絡しなよ」

「おお。家帰ったら連絡するわ」

「へーーーーー」

「次に会うときには絶対に返す」

「ほーーーーー」

 

優人が「嘘つき」と訴えるような上目遣いで俺を見る。

 

「キモイわ!」

 

今度は優人の頭をはたく。

 

「いて。もう、酔っぱらってるときにはたかないでよ。力加減がなくなるんだから」

「俺は次に会ったときに絶対にこの金を返す! そして必ず黒木を抱く!」

「だから、ファンの子に手を出さないでって言ってるでしょ」

「よし! そうと決まったら風俗行こう!」

「意味が分かんないし。ていうか、そんな恥ずかしいことでっかい声で言わないでよ。それに僕は風俗嫌いなの」

「お前は好きとか嫌い以前にチェリーボーイだろうが。風俗を語る資格なし」

「うるさい。悪魔。もう正太郎ちゃんとはコンビ解消だ」

「そんなこと寂しいこと言うなよ~。俺が奢るからさ」

「お金なくなっちゃうでしょ」

「いいのいいの。どうにかなるから」

 

どうにかなる。この10年、ずっとそんな気持ちでお笑いやってるな。

頭の片隅で冷静になっている自分がいる。

でも、気づくな。気づくな。

都合の悪いことからは目をそらせ。

 

「よし! 行くぞ!」

「だから、嫌だって言ってるでしょー」

 

優人、楽しい夜は永遠に続くよな。