売れてない若手芸人が出演する小さなライブは、

出演者全員が一つの楽屋に待機させられることがほとんどだ。

楽屋は狭く、ぎゅうぎゅう詰め。

全員が入り切れず、芸歴の浅い者は外で待たされることもある。

 

売れていないとはいえ、俺は芸歴10年。

楽屋の真ん中にある鏡の前を陣取った。

優人は楽屋の端っこに体育座りし、スマホゲームを始めた。

 

壁に貼られた手書きの香盤表を見ると、俺たちは今日のトリを務めるらしい。

いたずらに芸歴だけを重ねて、食えもしないのにトリかよ。これが今日一番、笑えるネタになりそうだ。

 

「お先に勉強させていただきます!」

 

芸歴1、2年目の若手芸人が挨拶してくる。

こんなライブに出演したって、勉強になんてならないだろ。

そう思いながらも「頑張ってな」と先輩らしく激励して見送る。

ここから一番抜け出したいのが俺のはずなのに、一番しっくり来ているのも俺。

情けない。恥ずかしい。

でも、その一方で異常なほどの居心地の良さを感じている。

 

「合コンしてよ」「マジで売れてえ」「ネタ作るの面倒なんだよね」「なんにも面白いこと浮かばねえ」「今日飲みにいかない?」「バイト面倒だわ」「1日で10万とか稼げる仕事ない?」「かわいい子紹介してよ」「誰か飯奢ってくれない?」「都合のいいエロい女いないの?」

 

会話はくだらないことばかり。どうでもいい話。空っぽの時間。ただその場に存在しているだけで、なにも生まれない。

 

時計を見ると、そろそろ俺たちの出番が近づいていた。

 

誰が俺たちのネタなんて見たいんだ?