「今日、ネタなにやる?」

 

いつの間にかトイレから戻ってきた優人が、

ぴったりと俺に体を寄せて、

俺の肩に頭を乗せながら聞いてきた。

 

「いつものでいいんじゃないか」

「そうだね。正ちゃん。いつものが一番いいよ」

「ああ……そうだな。じゃなくてキモイよ! カップルか俺たちは!」

「あははは~」

 

ネタ合わせをするために公園に来たはずなのに、

結局俺たちは1回も練習をしなかった。

 

最近は全く新ネタを作っておらず、ライブでは毎回同じネタばかり。

こんなんで売れるわけがないよな、と思う一方で、

続けてさえいればいつかチャンスがあるかもしれないと、

運でどうにかなるんじゃねーかと思っている自分もいる。

優人はどう思っているのかよくわからない。

昔は、冠番組を持つとか、賞レースで優勝するとか、熱く語り合っていた。

最近は、その日のネタの話さえしなくなった。

 

「給与明細見た?」

「そっか。給料日だったよね。まだ見てないや」

 

呑気なやつだ。優人は実家暮らし。

いくら金がなくても、家に帰れば食べ物があり、洗濯をしてくれて掃除をしてくれる親がいる。

 

「ところでさ、申し訳ないんだけど。ちょっと金借りられる?」

 

優人はなにも言わずに、財布を取り出し3000円を差し出した。

 

「今これしかないんだけど」

「ありがたい! 助かります! 優人様。さすが、名前の通り優しい人!」

 

優人はカバンからノートを取り出し、メモしている。

 

「貸したお金の合計、8万5000円だよ」

「存じ上げています! 優人様には足を向けて寝られません!」

「正太郎ちゃんは、僕がいないと生きていけないね」

 

優人は、俺のためにお笑いをやってくれているのかもしれないと、本気で思うときがある。

 

「神様、仏様、優人様。いつかちゃんと100倍の利子をつけてまとめて返済しますので」

「僕への返済はいつでもいいからさ。少しずつでも佳代(かよ)ちゃんに返してあげなよ」

「ああ~、う~~ん。俺だってね、返したい気持ちはあるよ。もちろんさ……。でもね、もう会うこともないしさ」

 

佳代の話を出されると歯切れが悪い。

 

佳代というのは、俺の元カノ。

 

じゃない。

 

勝手にあいつが付き合っていると思い込んでいただけの、ATMだった女だ。

 

優人、お前はいいやつだよ。