週末を利用して、妹とマルセイユに行ってきました。以前から、ぜひマルセイユに行きたかったのです。なぜなら、フランス南部の港町マルセイユは明治時代に多くの日本人留学生が船でヨーロッパに向かった際、最初の玄関口だった場合が多かったからです。ドイツに留学した森鴎外も、まずマルセイユに上陸し、汽車でドイツに向かいました。


横浜の港を出て、南アジアの国々に時々停泊し、インドを回り、トルコなどを経てマルセイユに到着したとき、若い日本人たちはどんなに心が期待と不安に膨らんだことでしょう。私は25歳の時にカナダのモントリオールに留学しましたが、初めてモントリオールに到着した時に飛行機から見た景色は、今でもはっきりと思い出せるほど印象深いものでした。夜だったので、モントリオールの町の豪華な夜景を見ながらだんだんと飛行機が下りて行った時、「この宝石箱みたいな町でいったいどんな生活が始まるんだろう」と期待と不安で胸がいっぱいになりました。


現代の、ほんの十数時間の飛行機の旅でもあれほど興奮したのだから、1か月以上も船に揺られ、だんだんと日本から離れ気候がどんどん変わっていってヨーロッパに上陸した留学生たちの気持ちはどんなものだっただろう、そうずっと思っていたので、ぜひマルセイユは行きたかったのです。


行く前に、妹が心配そうにメールしてきました。「マルセイユはフランスでもっとも治安が悪いってインターネットの情報に書いてあるよ。大丈夫?」。私はきっぱりと言いました。「あ、大丈夫。ジュネーブのほうが治安悪いくらい。治安が悪いところには旅行に行けない、と言っていたら、どこにも行けないから」とあっさり妹の不安を解消させました。


ジュネーブからTGV(テ・ジェ・ヴェ)、フランス版新幹線に乗ってマルセイユに向かいました。直行便であれば約3時間半で到着します。私たちが乗ったTGVはたぶん日本でいうと「こだま」号みたいなものではないかと思います。なぜなら、パリからTGVでマルセイユまで3時間半、とガイドブックに書いてあるからです。距離的にはたぶん半分くらいしかないのにジュネーブからも同じくらい時間がかかる、ということはスピードが遅いのですね。


夕方、マルセイユのサン・シャルル駅に到着しました。マルセイユはフランス第二の町、と聞いていたのですが、地下鉄はわずか2線しかありません。その地下鉄に乗り、2駅くらいでVieux-Port(旧港)駅に着きました。私たちが泊まるアパートメントホテルはここから徒歩数分です。


私は旅行する際、たいていアパートメントホテルに泊まります。アパートメントホテルはあまり日本ではなじみがないと思いますが、普通のホテルのようにレセプションがない場合が多く、毎日の掃除もありません。しかし、多くの場合部屋は広くキッチンがついていて自分でお茶をいれてリビングで飲んだり、スーパーマーケットで好きなおかずや飲み物を安くで買ってきてアパートで食べたりできるのでまるで自分の家にいるようにリラックスできます。


私たちが借りたアパートから見えた庭の風景です。



アパートは3階建ての3階で、エレベーターがないので荷物を持って上がらないといけませんでしたが、空が広く見えたので満足でした。


食事をしに外に出てみました。旧港に行くと、多くの観光客が集まっていました。天気がよく、適度に雲もあったので夕焼けがそれはそれはきれいに見えます。



この港に、たくさんの留学生たちが上陸したのか、と感慨深いものがありました。


旧市街に行ってみると、意外にも坂道だらけでした。事前にあまり情報収集せずに行ってしまったのですが、実は坂の多い町でした。



翌日は、歩くのも疲れてしまい、観光用の汽車ポッポに乗ってみました。マルセイユの町のどこからも見えるBasilique Notre-Dame de la Garde (ノートルダム ドゥラギャルドバジリク大聖堂)に向かう汽車です。息をのむほどに美しい海を見ながら進み、今度は丘に上がっていきます。



大聖堂に到着すると、青い空に幾筋も飛行機雲が見えました。塔の一番上には黄金のマリアとイエス像が立ってマルセイユの人々を見守っています。



翌日は、日本人のガイドさんをお願いして「カシ」という港を見に行きました。カシは、あまり日本では知られていないようですが、私たちはインターネットで調べて見つけました。本当にすばらしいところなのでもっと多くの人に知ってもらいたいところです。


マルセイユから車で1時間ほど海沿いを走り、丘を越えてカシに着きました。町としてはとても小さいのですが、カシの価値はここからです。小さな船に乗り、沖に出てそこからしか入れないカランク(入り江)に入っていくのです。私たちが乗ったのは15人乗りくらいの小さな船でした。いざ、カランク観光に出発!



船が小さいので波をかぶりながら進みます。入り江に入ると減速し、船長さんが海の中を指さしました。「ほら、魚が見えるよ」と。



たくさんの小さな魚が群れているのが見えます。海の透明で青いこと、こんなにきれいな海を見るのは初めてです。入り江はどこも断崖絶壁に囲まれていて、ところどころにわずかばかりの砂浜が見えました。多くの人が飛び込みやロッククライミングやカヌー遊びなどをしていました。



私たちの船よりも大きな船も入り江に入ってきていました。ある船の名前が「リリエンヌ」号となっていて、思わず両親の可愛がっている猫のリリーを思い出し、「リリエーンヌ!」とフランス映画みたいに船に向かって叫んでしまいました。



港に戻ると、ガイドさんが待ってくれていて今度は車で高い崖の上に連れて行ってくれました。海の近くを行くのも素晴らしいですが、私にとってはこの崖からの眺めが今回のマルセイユ旅行のハイライトでした。

どうしてこんな素晴らしい景色が日本で知られていないのでしょうか。



崖の上なので強い風が吹いていましたが、まさしく絶景。こんな写真ではこの風景の素晴らしさはお伝えできないのが残念です。機会があれば、ぜひ一人でも多くの人にこの景色を見てほしいと思います。


マルセイユに戻り、翌日昼にTGVに乗ってジュネーブに戻りました。マルセイユで滞在したアパートメントの近くにお寿司屋さんがあり、巻きずしを買ってTGVの中にあるパノラマビューの見える売店列車の中で景色を見ながらいただきました。



エビフライの入った巻きずし、アボカドと卵焼き、ツナなどの入った巻きずしなど3種類でした。ご飯もおいしく炊けていて、期待していなかった割にはおいしくいただけました。マルセイユには日本食のおいしいレストランやお好み焼き屋さんもある、とガイドさんに教えてもらったので、ぜひまた訪れてみたいと思います。


皆様も機会があればぜひマルセイユ、行ってみてください。治安が悪いことが知られてしまっていますが、気を付けていれば大丈夫ですよ。


ではでは。

ウサギ