今日は3月14日、金曜日。ようやくジュネーブ(フェルネー・ボルテール)に来て2週間がたちました。


たった2週間なのですが、もう何か月もいたような気がします。とても疲れました。なにもかもが日本のシステムとは違うので、戸惑うことばかりです。


今日は、秘書さんが「ごめんなさーい」と言いながら部屋に来て、「実は、あなたのお給料の振込の手続きを今日までしていなかったの。それはなぜかというと…」と説明してくれました。私の所属する国連機関では、経費節約のため人事機能をマレーシアのクアラルンプールに移しており、そこから新人に関するいろんな指令が本部の秘書さんに飛んでくるのです。一応私もccで入っているのですが、システムを知らない私にはちんぷんかんぷんです。それで、私の職場の秘書さんが、クアラルンプールからのメールの下半分を読んでいなくて、早急にするはずだったお給料の支払いに関する書類の手続きをしていなかったのです。実は、昨日、自分でもようやく落ち着いて人事からのメールを読む余裕が出てきて、添付書類を見つけ、「あれ?これは初めて見るな」と思うものがあり、「これ、提出しなきゃいけないんじゃないかと思うんだけど」とその秘書さんに問い合わせていたのです。


案の定、とても大事な手続きがまだこれからでした。ようやく書類をクアラルンプールの人事の秘書さんにメールで送ると、すぐに自動返信があり、なんとその秘書さんは19日までお休みを取っている、というのです。なんということ!すぐに、私の部署の秘書さんが、クアラルンプールの別の秘書さんのアドレスを教えてくれて、そちらにも送りましたが・・・。月末に本当にお給料が振り込まれるかわかりません。困りました。引っ越し代や飛行機代は初めに個人で支払い、あとで戻ってきますが、時間がかかります。ジュネーブの物価は高いし、どんどんお金が無くなるしで不安ですが、仕方ありません。ひたすら待つのみです。


また、ようやく今日自分のデスクの電話番号がわかりました。ただし、電話機は壊れているので「今クアラルンプールに注文しているからもう少し待ってね」と言うのです。それを聞いて、私の前のデスクに座っている男性が「くすっ」と笑いました。私が着任した初日に、私に「ここではすべてがゆっくりだからね」と言った男性です。


不吉です。クアラルンプール、と聞いただけで「はー」とため息が。私より前に来ていた日本人スタッフの一人は、自分のデスクの上の電話が壊れていて留守電が使えず、使えるようになるまで1年かかった、というのです。1年ですよ!1年!


この国連機関の中では時間がゆっくりと過ぎていきます。


家具付きアパートをお願いしてる不動産屋さんからは、アパートのオーナーに提出する書類として、スイスのCarte de Legitimation (カルトゥ・ドゥ・レジティマシヨン=居住登録証)を出してくれ、と言ってきたのですが、これまた職場の窓口で頼んでいるのですが、「2-3週間かかる」と言われています。このオフィスも、午前中しか開いていません。もっと働いてくれよ!と言いたいところですが、これもジュネーブ方式。ひたすら、待つのみです。ジュネーブに来て学んだのは、ここでは「待つ」ことがとにかく多い、ということです。じたばたしてもどうしようもありません。待つ、ひたすら待つのです。


やれやれ、いったいいつになったら落ち着くのか、自分はこんなところで何をしているのだろう、あっという間に2週間たってしまった。このままだと、何もしないまま半年くらいあっという間にたってしまうのではないか。何のために自分は来たのだろう、とウツウツとしながら午後を過ごし、ここには自分の場所はない、少なくとも、今はない!といたたまれなくなって、5時を待ちかねてホテルに戻りました。


ホテルの部屋に戻ってデスクの前に座ったら、「はーっ」と大きなため息が出ました。アー疲れた、もうイヤ。そんな気持ちで、ぐったりと数十分過ごしてしまいまいた。


でも、夕飯も食べないといけないし、冷蔵庫にはベイクドポテトの残りしかないし、外に食べに行くかな、でも一人じゃな、などとイジイジと考え続けていたのですが…。外を見ると7時前でもまだ明るいのです。せっかくこの明るさだから、今日できることは…と考えて、「そうだ!今度引っ越す(かもしれない)アパートを見に行こう!」と思いつきました。


昨日見に行ったアパートが、夕方どんなふうか、バス停から徒歩何分か、確かめに行こう、と思いつき、その帰りにどこかでご飯をたべよう!そうしましょうそうしましょう!と気分を変えました。


外に出ると、街の中心部(といってもとても小さい)には人がたくさん(といっても、とても少ない)歩いていました。




バス停から時間を見て、家具付きアパートまでちょうど5分でした。思った通り、静かで、薄暗がりでも鳴くツグミの声が響いていました。車の通りの激しいAvenue du Jura(アヴェニュ・デュ・ジュラ=ジュラ通り)からの騒音もほとんど気になりません。


やれやれ、よかった、と安心して、カルフール(スーパーマーケット)まで歩き、隣にあるクレープ屋さんに入りました。フェルネーでもジュネーブでも、カフェやパン屋さんの店員さん、タクシーの運転手さんの多くは、まったく英語を話しません。「yes」も「no」も言いません。日本の田舎町と同じなのです。


このクレープ屋さんも同様です。メニューを見てもよくわからないので、ビールに合うもの、と思い、ベーコンとオニオンのクレープを頼みました。でも、私のつたないフランス語を一生懸命聞き取ろうとしてくれて、「D'Accord(ダッコール=わかりました)」と言ってクレープの注文を取ってくれました。


ちなみに、このD'Accordが、とても私には新鮮です。カナダのモントリオールに留学していた当時は、フランス系の人たちはこのD'Accordをいいませんでした。英語の影響を強く受けているので、みな「OK(オキーと発音します)」と言っていたのです。私が日本でフランス語を勉強した時には、「わかりました」は「D'Accord」でしたので、ようやく、本当のフランス語に出会えた、と思うのでした。


それにしても、どうしてモントリオールにいた間にもっとしっかりとフランス語を勉強しておかなかったか、と後悔しきりです。


とにかく、ベーコンとオニオンのクレープを頼みました。今日のビールは、ハイネケンです。




クレープはそば粉のクレープでした。そばアレルギーのある方はご注意を。バターがたっぷり使われているので、それはそれは危険な香りがします。「これ全部食べたら太るよ」という天使の忠告が聞こえます。でももちろん、おいしゅうございます。食べ終わると、ウェイトレスさんがデザートは?と聞いてくるので、天使の忠告はありがたくいただきつつも無視して、メニューを四苦八苦して読んでいると、「砂糖のクレープ、フランベで」とあり、そのあとにアルコール度数の高いお酒の名前がたくさん書いてあります。


これは面白い、と思い、グラン・マニエのフランベのクレープを注文しました。すぐに、ウェイトレスさんが小さなお鍋にたっぷりとグラン・マニエの入ったものと、シンプルな砂糖がけのクレープを運んできました。お鍋の中のお酒に火をつけると…おおっすごい!炎が立ち上る!それを、一気にクレープにかけると、おおおっこれこそフランベ!というくらいの炎です。もう矢でも鉄砲でもフランス語でも国連でもジュネーブでもフェルネー・ボルテールでも持って来い!というおおらかな気持ちになりました。思わず「おーっ」と声を上げ、写真を撮っていると、周りの人たちもうれしそうに見ています。



グラン・マニエールのフランベ!

ウェイトレスさんが「Voila!(ボアラ!=はい、どうぞ)」と言って私の前においてくれました。こりゃいいや!と食べかけると、隣のテーブルで見ていたカップルの女性が、私にうれしそうに「Bon appetit! (ボナペティ!=どうぞ召し上がれ!)」と声をかけて帰って行きました。私も「Oui! Merci!(ええ、ありがとう!)」と答えて、モリモリ食べました。しかし、フランベしてあってもかなりアルコール分は残っているので、アルコールに弱い方は気を付けてください。今日の会計は、ビール一本、クレープ2枚、コーヒーで12ユーロ(1ユーロ140円として1700円くらい)でした。お値打ちです。


いやあ、フランベの威力はすごいです。なんだか元気になってホテルに戻り、受付でまた無料のコーヒーをもらって飲みながらこのブログを書いています。明日はフェルネー名物の朝市が開かれるので、ちょっと行ってみようかと思います。


ではでは、明日もきっと小さないいことがあるでしょう。おやすみなさい。

ウサギ