この3月11日、読売オンラインニュースに以下の記事がありました。
【ワシントン=田島大志、エルサレム=福島利之】米国のバイデン大統領は9日の米MSNBCの番組で、パレスチナ自治区ガザへの攻撃を続けるイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相について「イスラエルを助けるというより、傷つけている」と批判した。ガザでの人道支援を優先せずにイスラム主義組織ハマスの「壊滅」に突っ走るネタニヤフ氏への強烈な不満の表明とみられ、両者の溝が浮き彫りとなっている。
バイデン氏は「ネタニヤフ氏は無実の命が失われることに注意を払わなくてはならない」と注文を付けた上で、「3万人以上のパレスチナ人の死者を出してはいけない」と警告した。6週間の戦闘休止を改めて求める考えを示した。
はい、まさにここ、
この3万人という数字のところですね。
突如、黒田三郎さんの詩『引き裂かれたもの』の一節が
思い浮かんだのですよ。
この部分です。
一人死亡とは
それは
一人という
数のことなのかと
バイデン氏は数以上のことは言ってないのです。
ガザのたくさんの市民、子どもたちの死、
それが2万人台では不足なのですよ。
それを堂々と述べる!
ああ、この世界はすでに本当にあからさまです。
3月11日に思ったことを、
どうして今記事にするかというと、
頭から離れないからです。
人の死は重い。
そう思いませんか。
■引き裂かれたもの
その書きかけの手紙のひとことが
僕のこころを無惨に引き裂く
一週間たったら誕生日を迎える
たったひとりの幼いむすめに
胸を病む母の書いたひとことが
「ほしいものはきまりましたか
なんでもいってくるといいのよ」と
ひとりの貧しい母は書き
その書きかけの手紙を残して
死んだ
「二千の結核患者、炎熱の都議会に坐り込み
一人死亡」と
新聞は告げる
一人死亡!
一人死亡とは
それは
どういうことだったのか
識者は言う「療養中の体で闘争は疑問」と
識者は言う「政治患者を作る政治」と
識者は言う「やはり政治の貧困から」と
そのひとつひとつの言葉に
僕のなかの識者がうなずく
うなずきながら
ただうなずく自分に激しい屈辱を
僕は感じる
一人死亡とは
それは
一人という
数のことなのかと
一人死亡とは
決して失われてはならないものが
そこでみすみす失われてしまったことを
僕は決して許すことができない
死んだひとの永遠に届かない声
永遠に引き裂かれたもの!
無惨にかつぎ上げられた担架の上で
何のために
そのひとりの貧しい母は
死んだのか
「なんでも言ってくるといいのよ」と
その言葉がまだ幼いむすめの耳に入らぬ中に
黒田 三郎 詩集「渇いた心」所収