この記事のポイント:
・職場の人間関係トラブルの多くが嫉妬に起因している
・嫉妬は、生物の生存本能から生まれる情動で、衣食住に困らない社会では不要な感情
・嫉妬はストレスホルモンを誘引し、体にも悪い。
・嫉妬は感謝ができなくなった状態から生まれる
今回は少し角度を変え、仕事をしていく中で発生する人間関係トラブルの中でも、一番厄介な「嫉妬」について掘り下げます。
私のキャリアにおいてこれまで発生した「危機」の中でも、人間関係のトラブルから生じたものが一番インパクトが大きく、大抵の場合、「嫉妬」に起因していました。
誰かに対してあなたの奥深いところで嫉妬の気持ちがトグロを巻いていれば、その対象者へのあなたの判断は、ことごとくネガティブになります。そして、通常ならばしないような行動や、判断が、通常よりも早い速度で生まれてしまいます。しかも、通常ならば課程として通過する「論理的思考プロセス」はすっ飛ばされてしまいます。
また、誰かがあなたに対して嫉妬を抱いている場合も、同じことです。
公平かつ客観的な判断が何より重要なビジネスの場で、「嫉妬」ほどネガティブなインパクトをもたらす感情は無いと言っていいでしょう。「怒り」も同様ですが、嫉妬は怒りにも通じる感情でもあり、もっと簡単に生まれる感情なので、私はアンガーマネジメントよりも、まずは「嫉妬マネジメント」こそが大事だと思っています。
そもそも嫉妬ってなんでしょう?
嫉妬は聖書でも有名な七つの大罪の一つに数えられています:
暴食、色欲、強欲、憤怒、怠惰、嫉妬、傲慢
この七つの大罪は、どれも倫理的な抑制の効かない、本来人間に備わっている「悪」、つまり、「本能」なのです。
放っておくと、人は「嫉妬」を抱いてしまうもの。自分よりもたくさん食べものを持っている個体に対して悪感情を抱き、その人が持っているもの簒奪したいと感じるのは、「生物」としての本能なのです。
狩猟採集が中心で、共同体としての「文明」が発達するまでは、生き残るために当たり前のことで、必要な本能でした。「誰かに取られるかもしれないから食べものを自分で囲い込んでおこう」という感情も、七つの大罪の一つにある強欲ですが、これもまた動物としては必要な本能だったのでしょう。
しかし、定住し、農耕技術が進歩し、人類文明が発展し、食べ物に困ることのない社会においては、生存本能に突き動かされる「嫉妬」や「強欲」は共同体を乱す元凶となります。
だからこそ、未開社会から少しずつ文明へと変化してゆく過程を記録してきた聖書をはじめ、世界中の主たる宗教は、似た様な「本能」を「罪」としていましめています。これは、生物としての本能が、共同体社会の秩序の維持にはマイナスであることが、陽の東西を問わず共通の経験則であことを表しています。
でも、本能をコントロールするのってとても難しい。なぜなら、地球に生命が生まれたのは約35億年前。人類の脳が、大体今の大きさに達し、言語を獲得する能力を得たのは、たかだか40万年前。つまり、私たちの遺伝子は、ほとんどの時間を「本能」に基づいて動く世界で過ごしてきたのです。
七つの大罪をはじめ、人間社会で「罪」とされるものは、基本的に「闘争・逃走本能」に基づいています。闘争・逃走本能は、危機に直面した時に取る動物の行動を司る本能です。この本能が厄介である理由は、感情だけでなく、全身の身体的な反応を引き起こすところにあります。
嫉妬というのは、危機に対して動物が準備をするための「闘争・闘争」反応の芽生えの様なもの。潜在的な脅威を早期の段階で「敵」と捉え、排除しようとする本能に基づいています。本能的なものだからこそ、神経とも結びついているし、具体的な生化学的な変化を体にもたらします。
自分より豊か、あるいは恵まれているか、優れている人に対する敵意である「嫉妬」は、交感神経にアクセスして、体を攻撃体制に持っていきます。この時放出されるホルモンは、コルチゾールやアドレナリンなどの「ストレスホルモン」で、体を「攻撃するか、逃げるか」のどちらかの体制の準備をさせます。
嫉妬だけではなかなか体に変化は起きないと思われるかもしれませんが、誰かに対して嫉妬を抱くとき、自分の体に起きる変化をよく観察してみてください。なんとなく、じわっと、自分の血管の中で「嫌な感じ」が起きる様な気がしませんか?
ストレスを感じた時に分泌されるコルチゾールなどのストレスホルモンには、血管を収縮させ、血圧を上げる働きがあるからです。
大きな恐怖を感じた時に血管が収縮しますが、嫉妬の時も軽度ですが似た様な事が起きていると考えてよいでしょう。
つまり、嫉妬は、体の中でストレス物質を分泌させ、血管にダメージを与え、加齢を加速させるのであって、そのダメージは人間関係にとどまらない、とてつもなくネガティブな感情なのです。
そして、何より強調すべきなのが、
嫉妬は基本的に「感じるだけ無駄」な感情である
こと。
「同僚が自分より先に出世した」→同僚に嫉妬したり、人事に恨みを募らせても、あなたの人間的評価を貶めるだけで無駄
「友達に自分より先に恋人ができた」→嫉妬を覚えればストレス物質であなたの皮膚の透明度は下がり、魅力が低下
などなど。感じたところで無駄以外の何者でも無いのが嫉妬。
ではどうしたらいいのでしょう?対処方法のステップは三つ:
1.意識する。嫉妬を感じた瞬間に、嫉妬の感情に意識的になること。つまり、嫉妬してるな、と自分で気づける様になることが初めの一歩です。気づき始めると、自分が如何に、無意識にネガティブな感情をたくさん抱いていたかに気づけますよ。その度にストレスホルモンが大放出されていて、体に悪いことをしていたと、強く実感しましょう。
2,嫉妬を受け入れる。誰かの昇進などに嫉妬していることに気づいた時。あ、自分はもっと認めてもらいたいんだな、そういう気持ちが強いんだな、と自分の中にあり、これまで認められていなかった感情を認めてあげましょう。そして、前向きかつ建設的にその気持ちに応えてあげる方法を考えましょう。
3,嫉妬を手放し、自分を褒めてあげ、感謝する。嫉妬の反対は「感謝」とされています。嫉妬が湧き上がる原因の一つは、自分が今与えられている恵みに対して目が向かなくなり、感謝できなくなっていること。だから、充足よりも不足に目が行ってしまうのです。
感謝し、褒めてあげると、体の中では、セロトニン、オキシトシン、ドーパミンなどの「幸せホルモン」と言われる良いホルモンが分泌され、顔色も良くなり、筋肉の働きも良くなって代謝も改善します。
感謝できなくなった自分に気づき、受容して、そして癒してあげることで、だんだんと嫉妬しない人間となり、不要な闘争逃走本能に振り回されない心と体で生きる事ができるようになっていきます。
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