この記事のポイント:
・イプソス国家ブランド指数で日本が西洋以外の国で初の1位、ドイツ、米以外の国で首位は初
・日本のブランド力の高さは海外に行くと感じるが日本にいると気づかない。「失われた30年」は日本の人がマイペースかつ地味に、環境と地域文化の保護を大事にしながら、文化と生活の質を上げて来た30年だった
・インフラとテクノロジーがある程度飽和状態になり、新興国で作れない製品が最早無い今、競争は付加価値の高い製品やサービスで、如何にクリエティブにアレンジするかのデザイン力の勝負へと時代が移行している。デザインとアレンジ力では、イプソス調査が示した様に、「他の誰にも真似できないもの」を作る能力で世界一の評価を受けた日本が強い

前回の投稿より、仏調査会社イプソスの国家ブランド指数で、日本が西洋以外の国、それもドイツとアメリカ以外で初めて首位となったことについて掘り下げています。調査についてはこちら:

昨年、ほぼ十数年ぶりに、ヨーロッパを代表するある都市を仕事で訪ねました。週末の時間を活用し、トレンド調査も兼ねてショッピングを楽しみました。印象的だったのは、高級デパートでは、アジアや中東の観光客が集団で、大きな声で、マナーそっちのけの態度で我が物顔で店を占拠し買い物に勤しむ中、疲れて困ったような顔の現地のショップ店員の姿。

そんな中で私が一人で訪れると、一人で訪れているのもあり、現地の言葉がまぁまぁ話せるのもあって、会話が始まり、私が日本人であることを知ると、どの店員も顔がパッと明るくなって、とっても喜んでくれるのです。そしてほぼ一律に、みなさんこうおっしゃるのです;
「日本に一度でいいから行ってみたいとおもってるの!」
「憧れの国なの!」
どうして?と私が聞くと、みなさん
「だって文化がどことも違うし、何をみても日本のモノってクオリティが高くて洗練されているし、日本食も大好きだし、自然も素晴らしいって聞くし。日本人は礼儀正しくて優しいし。一度でいいから行くのが夢なの」

男女問わず、世代問わず、そんな反応なのです。ヨーロッパでも随一のブランド力を誇る都市の、世界トップクラスの販売員の方がそうおっしゃるのです。

とにかく日本人じゃ無いか?と思われるとみなさん親切にしてくれるし、特別扱い。話しを始めれば日本の人気度にびっくり。あと「日本人お客様は珍しい、ほとんど中東産油国か中国系だから!」

この事態に、私は隔世の感を覚えました。

というのも、バブル絶頂期に私はヨーロッパに住んでおり、この街に年に一回くらいは訪れていたから。80年代後半の当時、円高の波にのって大量の日本人がこの街にブランド品を買い漁りに来ていた。そんな中で店に入ると、とても失礼な態度を取られ、母が怒っていたのをよく覚えています。今、中国や中東のニューリッチ層観光客に対して、店員さんが取っている態度と似たようなところがあります。

あれからの年月は、「失われた」といわれていますが、今の日本全体のブランド力を見ると、実は一概にそうとも言えないのです。

生めよ増やせよと、どんどん人口も増え、どんどん大量生産品を輸出して稼ぐのが正しい成長ではなく、それが地球にとってサステナブルで無いことも明らかになっています。

経済が成長し、安定した中産階級が出現して以降は、安価な労働力で、量とスピードで勝負することはできなくなる。コピー可能な廉価品で勝負できないなら、イノベーション、クリエイティビティ、そしてデザインのオリジナリティや優劣で勝負するしかない。

その面においては、日本人本来の美意識と、物事をとことんまで追求する職人気質、独自の文化が、非常に強い武器となるのです。

この30年ないし40年の間、日本の人たちはかなりマイペースに過ごして来ました。たとえば、ミシュランの星が付くことを辞退するレストラン店主などは、まさに日本にしかない「マイペース」。グローバルの指標なんてどうでも良く、大事なのは自分が納得できるかに加えて、常連さんに響くクオリティということで、あっぱれな自分軸。

世界はどんどん変わって行っているみたいだけど、自分にとって心地よくて、楽しいものを追求できればいい、そんな風に多くの日本人が感じて来た30年でもあると言える。

ディープテックや、デジタル、ITなどの分野では大きく遅れを取っているのかもしれません。一方で、70年代に誕生した日本の中堅規模の企業には、実は世界が注目するイノベーション力があり、スタートアップよりもイノベイティブと評価されている企業がたくさんあるのです。それらの企業は今、円安に乗じて海外ファンドや企業から、虎視眈々と狙われています。高度経済成長を他のアジア諸国よりもずっと早くに達成した日本は、科学技術力を熟成させ、文化と社会に浸透させる時間がありました。

一方、今やっと中産階級が登場している新興国は、資源や気候変動、地政学的対立から引き起こされるリスクに直面し、そのようにのんびりと社会と文化を成熟させる余裕は無いだろうと言われています。

テクノロジーがある程度進化するだけ進化して、大体のインフラが整った後は、「デザインの勝負」と言われています。与えられた仕組みの上でいろいろなことを調整して独自のものを生み出すデザイン力、アレンジ力は、漢字を中国から受け継いで独自のひらがな文化や文学を発展させてきた時代から、日本が得意としてきたものではないでしょうか。

イプソスの調査では、輸出力、文化やコンテンツの魅力、人材、移住と投資などの分野での国の「ブランド力」を評価しますが、日本が1位となることに大きく貢献したと見られる項目があります。

「私はこの国で製造された製品を信頼している」
「この場所は他のどの場所とも異なっている」

の二つの項目で、日本は1位を獲得しているのです。

これほどのブランド力を誇っているのに、日本はお先真っ暗、という論調が国内では優勢です。私は、お先真っ暗というよりも、今日本は岐路に立っていると思っています。なんとなく世界の喧騒に背を向けて、マイペースに過ごしていたら手にしていたブランド力。しかし、その経済的評価はそのブランド力の高さをきちんと反映しているとは言えません。歴史的な円安で、日本のブランドは安く買い叩かれています。

日本の素晴らしい職人、料理人、プライドを持って仕事に勤しんでいる全ての人が円安で買い叩かれ、きちんとその仕事ぶりを評価されていない。これはやはり、経済がグローバルにつながっている現代において、サステナブルでは無いのです。

この責任は、多くは政府、特に財務省と日銀にあります。この30年間、粛々と黙々と、日本のブランド力アップに貢献してきたすべての人たちの努力によって蓄積され、形成されてきた、このブランド力という貴重な資源を政府の無策で食い潰してはいけないと思います。
政府は、日本のブランド力を活かして、ノマドワーカーや、起業家を世界から集めようとしていますが、それにしても、極度の円安を経済の規模と質に見合った水準に是正し、評価されるべき人の評価を賃金として上げていかなければ、良い人材が日本から流出し続けてしまいます。今が瀬戸際です。



(この記事は下記の投稿の続きです)