12. Out to Lunch! (Eric Dolphy) - 1964
フリー・ジャズの定義が「ハーモニーやスケールをベースにしない即興演奏」であるのなら、エリック・ドルフィーの音楽はそこに当てはまるが、アルバムを通して彼の音楽を聞くと、「フリー」と呼ぶのがはばかられるほど、細かく構成された音楽であることがわかる。調性外の音や、大きな音程(音の隔たり)が多く使われるので、オーネット・コールマンの音楽との類似性を感じるが、本能と経験でフレーズを生み出していたようにみえるオーネットに対して、ドルフィーは現代音楽などを研究した結果としてそこにたどり着いたようだ。「Hat and Beard」では、Cオルタードスケールをベースとして9音のモチーフを作り、それを基に曲が構成されている。大学の課題で12音音楽を作曲したことがあるが、それと似た制作方法で作られている。即興は制約なく自由に演奏しているが、全体的に丁寧なアレンジがほどこしてあり、作曲者の意思に沿って音楽が展開していく。 うって変わって「Something Sweet, Something Tender」では、コードを付けたメロディが用意される。メロディが二度演奏され、その間と終わりにバス・クラリネットの即興が入る。バス・クラリネットをジャズのソロ楽器として使ったのもドルフィーが最初とされている。最も、その後も有名な奏者は出ていないので、あくまで傍流の域に留まっていると考えた方がいいかもしれない。 それ以降の曲も、作曲も構成も質が高くて、集中して聞くことができれば楽しめるはずだ。演奏もフレディ・ハバード(トランペット)、ボビー・ハッチャーソン(ヴィブラフォン)、トニー・ウィリアムズ(ドラム)という一流が揃えられていて、タイトで職人的な演奏をしている。フレンチのアミューズを食べるときのように、素材が何で、どんな風に調理されたのかに興味を持ちつつ聞けば、シェフがどれくらいの時間をかけて準備したものかわかり、エリック・ドルフィーの稀有な才能を評価せずにはいられないであろう。 ドルフィーの他のアルバムとの違いは、ヴィブラフォン(鉄琴)の存在だ。名前に「振動(Vibration)」が含まれているように、鍵盤の下の菅が響きエコーのような効果を発揮する楽器である。そのため、聞いている者は自然と空間を意識するようになる。その効果を活かすアレンジになっていて、作品に立体感を与えている。 このアルバムの名前も好きだ。ドルフィーのそれまでのアルバムでは、「Outward Bound」や「Out There」など、「辺境」を表す意味で「Out」という単語が使われているが、このアルバムでは、それを「ランチのため外出中」というカジュアルな表現と結びつけていて、それまでの気負いがなくなっている。