台湾総統選で民進党が「辛勝」、立法院では勢力減退
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24/1/13(土) 21:33

野嶋剛ジャーナリスト/作家/大東文化大学教授

総統選挙は民進党・頼氏が勝利確実
13日夕方に始まった開票作業の結果、頼氏の当選は確実となった。国民党候補である侯友宜・新北市長、民衆党候補である柯文哲・前台北市長の追い上げも及ばなかった。
台湾では1996年に総統直接選挙が始まってから8回目の選挙で、李登輝、陳水扁、馬英九、蔡英文に続く5人目の総統となる。21世紀になって、同じ政党が三期続けて総統ポストを保持した前例はない。
「一つの中国」の受け入れを拒む民進党を「独立勢力」と敵視する中国の圧力をはねのけての当選となった。

野党分裂のおかげの「辛勝」
13日夜日本時間9時半時点で、台湾のメディアによると、野党候補の2人が敗北宣言を行なったため、頼氏の当選が確実になった。

ただ、頼氏の得票率は4割ほどで、「逃げ切り」や「辛勝」と総括するのが適当だろう。野党分裂がなければ敗北したかもれない。
前回、前々回の蔡英文総統の得票率(2020年=56%、2022年=58%)と比べても、その前の馬英九総統の得票率(2008年=58%、2012年=51%)と比べても、かなり低いものであり、直接投票による選挙が始まって以来、第5代目となる総統に就任する頼氏は「弱い総統」としての門出が避けられない。

若者票に逃げられた民進党
投票率はまだ正確なものが出ていないが、2020年の前回選挙の74.9%よりは下がった形になりそうだ。前回の選挙では民進党・蔡英文総統は記録的な得票を獲得して再選を果たした。そのときに票源となったと見られる若者や都市住民などの「浮動票」「中間派」「無党派」などのグループが今回は、投票に行かないか、柯文哲に流れるかしてしまい、押し留めることができなかった。

逆境に強い政治家
ただ、それだけで頼氏の前途が暗いものだと断定するべきではない。頼氏は逆境に強い政治家だ。2022年末の地方選挙の大敗から民進党の立ち直りに発揮したリーダーシップは記憶に新しい。貧しい炭鉱夫の家庭に育って台湾のリーダーにの仕上がった意思の力をもってすれば、失われた支持を取り戻すことも不可能ではないかもしれない。 

立法院では国民党が優勢
しかし、大きな不安材料は、同日に行われた立法委員(国会議員)選挙の結果で大きな勢力減退が避けられないことだ。
民進党は現有議席(62)を大幅に減らして50議席程度にとどまりそうだ。国民党は現有議席(38)を大きく増やして50議席を超えそうだ。
ただどちらも定数113議席の過半数となる57議席には達しそうにない。
第三勢力の民衆党は現有議席の5をさらに伸ばした。民進党は、蔡総統時代の「完全執政」、つまり総統と立法院の両方を握ることを断念することになった。

キャスティングボートは新興勢力・民衆党の手に
今後は民衆党がキャスティングボートを握ることになるが、民進党と国民党、どちらと組むかは不透明だ。選挙前の協力関係からすれば国民党のほうがつながりを深めていたが、一方で、民進党が執政党になるので、立法院での協力を条件に、立法院の副院長(副議長)や内閣の部長(大臣)のポスト幾つかと引き換えにすることができる。そちらの方が現実的なメリットは大きい。民衆党は事実上、柯文哲氏の個人政党的色彩が強い政党であり、柯文哲氏はブレの大きい人物として知られる。読みにくい情勢となりそうだ。

中国は圧力と懐柔で
中国の出方は今後の注目点であるが、「実務的な台湾独立主義者」と自認したこともある頼清徳氏の当選は嬉しいはずはない。副総統となる蕭美琴・前駐日代表は中国政府が頑固な台湾独立分子」と公式認定すらしている。その顔ぶれで、民進党政権が続くことは当然不快に感じるだろう。今後、経済協力関係の打ち切り・優遇措置の取り消しなど「制裁」に出てくる可能性は高い。選挙前は今回の選挙は「戦争か平和かの選択だ」というメッセージを北京は盛んに発してきた。その意味では台湾人民は「戦争を選んだ」というふうに習近平氏が認定しても不思議ではない。

中国の友好勢力の国民党は立法院で伸長
しかし、だからといってECFAの打ち切りや一昨年8月のペロシ訪台以上の軍事演習などの措置にすぐ出るとは考えにくい。友好勢力の国民党や民衆党が総統では敗れたものの立法院では一定の伸長を実現したことは、中国にとっては歓迎すべき状況だからだ。激しく台湾への北風を強めてしまうと、せっかくの民進党の弱体化から息を吹き替えるリスクもある。圧力と懐柔のバランスの取り方は中国にとっても悩ましい。米国との関係の安定化や国内経済の立て直しもまだ途上であることも考えると、台湾への対応を決めるのにしばらく時間をかける可能性もある。

(引用終わり)
「一つの中国」の受け入れを拒む民進党の頼清徳が李登輝、陳水扁、馬英九、蔡英文に続く5人目の中華民国総統となる。
親日の蔡英文総統の路線を継承すると見られているから、日本国としても満足すべき結果だ。

台湾危機は、日本にとって得なことはない。
中共の友好勢力の国民党が総統ポストを得た場合、中共が経済圧力に加えて、軍事的圧力が高まることが憂慮される。
日米との協力路線を堅持する民進党が総統ポストを握る限り、中共も無理はできない。
既に日本が対中軍事対決を前提とした防衛力増強に乗り出しており、台湾支援の準備が整いつつある。巡航ミサイルトマホーク400発を突き付けられれば、北京も無事では済まない。正確には習近平氏の命だが。

台湾が陥落するとすれば、台湾政権が反米反日政権になった時だけだ。
韓国で長く反日政権が続いてきたのは、在韓米軍が存在していたからだ。
トランプ大統領が在韓米軍の撤退を決めれば、韓国は中共に屈する。

日本が民進党政権へのテコ入れをすべきだ。
国交回復、総統を国賓として日本に招くべきだ。
これが外交である。

日本が台湾の後ろ盾になるべきだろう。