Ladyが中学生の時に通っていたアメリカの名門音楽学院のプレカレッジ。
生徒のほとんどはヨーロッパから留学していた貴族の子息・令嬢であった。
そんな中で他を圧倒する絶対的カリスマを持つ令嬢がいた。
その名はエル。
マエストロー(指揮者)志望で、優れた才能を持ち、Ladyでさえも従える学院の女王であった。
学院の卒業コンサートが行われた。
コンサート・ホールを借り切り、クラス単位で演奏を披露する。学院の教授や関係者のほか、父兄や卒業生なども観客として招待された。
このコンサートに出席して合格点をもらえないと、プレカレッジの終了資格がもらえなかった。
学生のほとんどは、将来は音楽院本科に進みたいと希望していた。世界的に難関とされる音楽院であれば、プレカレッジを卒業していることは重要なポイントとなる。
プレカレッジに入学した段階で、生徒たちは既に優秀な音楽家であり、卒業コンサートに落第する者は基本的にいなかった。ただ、当日遅刻したものは参加を許されず、終了課程がもらえないという学則があった。
生徒たちは万難を排してその日に備えるのだ。
当日、集合時間になっても、Ladyのクラスの女生徒の一人が現れなかった。
自宅へ連絡すると、とっくに出たという。学生が携帯電話を持っているような時代ではなく、本人へ連絡することはできなかった。本人からの連絡もない。
担任の教授以下、クラスメイトたちも心配し、全員が会場入り口の広場に集まり、それぞれの楽器を握りしめて通りの左右を見つめていた。
教授「みんな、そろそろ時間だ。会場に入りなさい。君たちまで演奏ができなくなってしまうぞ。」
エイミー「イヤです先生。アタシたちは彼女を待っています。」
レミア「そうです。彼女はクラスの一員です。私たちは全員でコンサートに出たいんです。」
教授「むう・・・」
教授は渋い顔をして、一人で会場へと入っていった。
他の教授たちに掛け合い、Ladyのクラスの順番をプログラムの最後に回してもらった。
時間は過ぎていったが、女生徒は姿を現さなかった。
それまで黙って立っていたエルが口を開いた。
エル「皆さん、こうしていても何も進展しませんわ。会場に入って準備をいたしましょう。遅刻は自己責任ですもの。卒業できなかったとしても、それは彼女自身の責任ですわ。」
エイミー「何言ってるのサー・エル。彼女はアタシたちは仲間なのよっ!」
レミア「そうだよ。最後のコンサートなんだもん。全員揃って演奏しようよ。」
エル「理解できませんわ、バカバカしい。サー・Lady、アナタも同じお考え?」
Lady「まあね。バカなのは認めるけどね。」
エル「付き合っていられませんわね。」
エルは踵を返し、一人で会場へと入っていった。
エイミー「冷たいのね、彼女。」
レミア「あんな人だとは思わなかったわ。」
Lady「まあ、普通に考えれば、彼女が正しいんだけどね。」
さらに時間が経ち、遂にはコンサートも終盤となった頃、遅刻していた女生徒が息を切らせて駆け込んできた。
クラスメイトたちが歓声をあげて向かい入れた。
遅刻の理由は、その場の全員が納得できるものだった。女生徒を責める者は一人もいなかった。
会場からは、その日の観客たちがチラホラと退出し始めていた。
エイミー「あーあ、終わっちゃったか。」
レミア「アタシたちの青春もね。」
Lady「大げさだね(笑)」
全員が苦笑する中・・・
マリコ「あの、皆さん。ここで演奏しませんか?」
全員「!」
全員、顔を見合わせた。
エイミー「いいね、やろうよ。」
レミア「卒業はできなかったけど、実力はアタシらが一番だってこと、今日集まった人たちにわからせてやろうぜ。」
全員、それぞれの楽器を取り出し始めた。
Lady「仕方ない。ピアノは持ってこれないから、サックスを担当するか。」
するとそこへ、会場から出てきたエルが近づいてきた。
エル「あなたたち、マエストロー無しに演奏するおつもり?」
そういうと、ケースから自分の指揮棒を取り出した。
レミア「何?アタシたちとやりたいの?」
エル「バカなことを仰らないで。あなたたちが困っている様子なので、助けてあげてるだけですわ。」
エイミー「一緒にやりたいんなら、そう言えばいいのにw」
レミア「相変わらず素直じゃないねw」
Lady「まあまあ(笑)でも、サー・エル。あなたはコンサートに出場できたんでしょう?」
エル「さあ、よく覚えていませんわ。」
教授たちはエルに対して、他のクラスに混ざってコンサートに参加するよう指示したが、彼女は頑としてそれを拒否した。
エル「ワタクシのチームは外におりますわ。ワタクシは自分のチーム以外と演奏する気はございません。」
Ladyたちが演奏を始めると、帰りかけていた観客たちが集まってきた。
やがて人だかりができた。
演奏が終わると大きな拍手が起こり、アンコールの声が掛かった。
こうしてLadyたちは、会場の外で演奏を続けたのだった。
さて、卒業コナサートへの遅刻は終了資格の取り消しという学則はあったが、表向きの話だった。これまでも遅刻者は出ており、随時、追加の個別試験で卒業資格が与えられていた。
生徒たちはそれを知らなかったのである。Ladyたちは全員、無事に卒業できた。
私「エルも本科へ進んだんでしょ?」
Lady「」うん。主席卒業してる。
私「どこかのオーケストラにスカウトされたの?」
Lady「」ベルリン・フィルとウィーン・フィルで、最年少マエストローの記録を更新したよ。
私「スゲエ・・・」
Lady「そのあと、音楽をスッパリやめちゃったのが、あの人らしいかな。」
私「そうなんだあ・・・」
Lady「その後はヨーロッパを横断する鉄道会社を創って、」CEOをやってるよ。
Lady自身が普通ではないせいか、彼女の友人には普通じゃない人が多い。
ヨーロッパ貴族、アメリカの政治家、官僚、経済人、科学者、NASAの技術者、アーティスト、ハリウッド・セレブ。
一方で、私のような下々の人間とも付き合っているのが、Ladyの面白いところだろう。
