
「あの出会いが無かったら、五木ひろしは存在しませんでした」
先月亡くなった作家山口洋子について歌手五木ひろしはそうコメントした。
あの出会いとは。
五木ひろしは今の名前になるまで3度名前を変えていた。
5歳のころ美空ひばりの「リンゴ追分」を歌い、その歌のうまさはそのころから周囲を驚かせていた。
歌手を目指し上京し、デビューするも苦労の日々が続く。
そして転機が訪れたのが、テレビの全日本歌謡選手権で十週勝ち抜いたとき。
歌手生命を賭けて出場した番組、その審査員の一人が山口洋子であった。
山口洋子はその歌手に賭けることになる。
「五木ひろし」という名前を付け、「よこはま・たそがれ」を与えた。
1971年。五木ひろしは山口洋子との運命的な出会いと「よこはま・たそがれ」により四度目の勝負で見事花を咲かせたのである。
しかし山口洋子はさらに大輪の花を咲かせたいとの夢を持つ。
それは、レコード大賞を取ること、紅白歌合戦でトリを取ること、大劇場での正月公演を実現させることであった。
それらは間もなく現実となった。山口洋子の夢はかない、五木ひろしは名実ともに大歌手の仲間入りを果たすのである。
再デビュー曲となった「よこはま・たそがれ」の歌詞は、今までの詞のイメージとは異なるものであった。
4・4・7、4・4・7・・・の名詞が並べられただけの前半。
この詞に曲を付けた作曲家の平尾昌晃は「当初は理解できませんでした。でも、その体言止めを使った手法こそが新しいリズムだったんです。」と述べている。
よこはま たそがれ ホテルの小部屋
くちづけ 残り香 煙草のけむり
ブルース 口笛 女の涙
あの人は 行って行ってしまった
あの人は 行って行ってしまった
もう帰らない
裏町 スナック 酔えないお酒
ゆきずり 嘘つき 気まぐれ男
あてない 恋歌 流しのギター
あの人は 行って行ってしまった
あの人は 行って行ってしまった
もうよその人
木枯らし 想い出 グレーのコート
あきらめ 水色 つめたい夜明け
海鳴り 燈台 一羽のかもめ
あの人は 行って行ってしまった
あの人は 行って行ってしまった
もうおしまいね
流行歌、歌謡曲といわれるもの、その作者はほとんどが男である。作曲も作詞も。
男女の機微を描く演歌の世界においてもである。女性の思いを歌った歌。しかしその多くは男の詞による。
そんな中で山口洋子はめずらし存在と言える。
山口洋子は銀座の高級クラブの経営者でもあった。
多くの男を見てきた。そこから生まれた女心の詞は説得力を持つ。
中条きよしが歌った「うそ」という歌がある。
「折れた煙草の吸殻で あなたの嘘がわかるのよ」
これなどは印象に残るフレーズである。
山口洋子は何よりも五木ひろしの名付け親であり、育ての親であったのである。
その五木ひろしは来年芸能生活50周年を迎える。
たそがれ時とは夕方暗くなり「誰そ、彼は」と人の顔の見分け難くなった時分。
横浜はたそがれ時から夜へと変わっていく。


