今「まんだらけ」の万引き事件が話題になっている。
「まんだらけ」は中野区にあり、私がまだ中野にいた頃オープンした。当時はまだマンガ本の古本屋という感であった。今やマニアックな店となり、その影響からかこの一帯はオタクの聖地とまで言われているようである。
 
作家井上ひさしのエッセイ集に「万引き」という短い文章がある。
以前読んだものが今また思い出された。
内容は井上ひさしが少年時代、ある地方の書店で英和辞典を万引きした話。
本人はなぜその英和辞書を万引きしたのかわからないのであるが、とにかくそれが店の人に見つかった。おばあさんは少年を店の裏につれていきこう話して聞かせた。
盗んだのは500円の英和辞典。その辞典を売ると100円の儲けになる。盗まれると100円の儲けがフイになるうえ500円の損が出る。その500円を稼ぐには500円の本を5冊も売らなければならない。うちは6人家族だから、こういう本を月に100冊も200冊も売らなければならない。坊やのような人が月に30人もいたら家族は餓死しなければならない。本一冊と軽い気持ちでやったのだろうけど、坊やのやったことは人殺しに近いんだよと。
おばあさんは少年に家の薪割りを命じ万引きを勘弁してくれる。そして薪割りの手間賃700円を差し出す、そこから英和事典代500円を引き、200円を少年に渡して返した。
井上はこの時200円の労賃と英和辞典と、欲しいものがあれば働けばいい、働いても買えないものは欲しがらなければいいという知恵を手に入れたと。
おばあさんの説明で、万引きが緩慢な殺人に等しいということが骨身にしみたということである。
私はこのおばあさんの厳しさと寛大さに感心する。子供へのいい教育者でもある。
 
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万引きに関しては私にも思い出がある。
小学生のころ、親戚の家に泊まりに行ったとき。
年上の従兄と近所の店に買い物に行った。その店はいわゆる万屋、小さな店でその家とは親戚にあたる。店の人も良く知っている。
そこで私はかっぱえびせんを一袋お金を払わず持ち帰ってしまった。当時20円ぐらいのものであったと思う。
家に帰って気が付いたのであるが、私はそれを万引きしたと思った。
そのことがずっと気になってしょうがなかったが、誰にも言わなかったしお金を払いにもいかなかった。後でおしかりを受けるのではと思っていたが、それもなかった。狭い店であり店の人が気付かないはずはない。もしかしたら従兄が払っていたのかもしれない、店の人が見て見ぬふりをしたのかもしれないが、真実は分からない。ただ自分がお金を払わす商品を持ち帰ったという思い、罪悪感がしばらく残り続けた。今でも思い出すことがある。
以来万引きはしていない。
 
万引きはれっきとした窃盗罪という犯罪である。
店にとっては死活問題。
新宿の大手書店に万引き防止のポスターが掲示されていた。
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「万引き」は、刑法第235条の窃盗罪に該当し、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金とある。
何より「万引き」は緩慢な殺人行為であるという事だ。