5月の始め伊東に滞在した。
食事を終え部屋に戻ると日が沈んだ山々の上に細い月がかかっていた。
 
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その光景を見た時、この歌のフレーズがうかんだ。
「伊豆の山々 月淡く~」
「湯の町エレジー」である。
 
近江俊郎が歌って大ヒットした曲である。
1948年(昭和23年)に発売された。
近江俊郎は私には晩年歌謡番組の審査員やバラエティー番組でのイメージが強い。
近江俊郎自身にとって最大のヒット曲となった。
録音する時出だしの低音がうまく歌えず何度もやり直したというエピソードがある。
それだけプロにも難しい曲であるが、素人のど自慢では人気の曲であったといわれる。
出だしはうまくいっても「月淡く」のところで高音になる。多くは「つ~」で音が外れて「カーン」と鉦が一つ。
 
作曲は古賀政男。
古賀にとっても戦後最初に大ヒットした曲の一つである。
古賀は自伝の中で「湯の町エレジー」誕生について触れている。
伊東の旅館で、明治大学マンドリン倶楽部の卒業生送別会が行われその席で教え子たちを前に初めてこの曲をギターを爪弾きながら披露した。聴き終えるとみんな異口同音に「古いなあ、今の新しい時代に、こんな歌はもう流行りませんよ」と。
しかし結果的に大ヒットとなった。
古賀は言う「占領下のインフレのなか、人々の生活はやはり苦しかった。おそらく、この曲のなかの吐息のようなもの、あるいは溜息のようなものに、人々は共鳴したのではないかと思う。」
 
戦後すぐの時代においてすら若者から古いといわれた曲。
しかし今、幾多の曲がある中でこの「湯の町エレジー」は私にはかえって新鮮に思えるのである。
 
伊豆の山々 月あわく
灯りにむせぶ 湯のけむり
ああ初恋の 君を尋ねて今宵また
ギターつまびく 旅の鳥
 
風のたよりに 聞く君は
出泉(いでゆ)の町の 人の妻
ああ相見ても 晴れて語れぬこの思い
せめてとどけよ 流し唄
 
あわい湯の香も 路地裏も
君住む故に 懐かしや
ああ忘られぬ 夢を慕いて散る泪
今宵ギターも むせび泣く