ゴースト
人間が人間であるためのものが決して少なくないように
自分が自分であるためには
驚くほど多くのものが必要だ
他人を隔てるための顔
それとは意識しない声
目覚めのときに見つめる手
幼かった頃の記憶
未来への予感
それだけじゃない
私がアクセスできる膨大な情報やネットの広がり
それらすべては
私の一部であり
私という意識そのものを創りだし
そして同時に
私をある限界へと制約し続ける…
――――――――草薙 素子
廻る五千円の旅
先週、帰りが遅くなって久しぶりにタクシーに乗った
家までいくらかかるか聞いたら五千円はかかると運転手はいう
せっかくなので運転手のおっさんに面白い話がないか聞くと
得意そうに最近ヤクザを乗せた話をしてくれた
後ろの席でヤクザの男はずっと電話していて運転手はそれを聞いてたんだって
北海道で五千円の偽札を何枚捌いたと親分に報告していた
その五千円の偽札はフィリピンとかそこら辺でつくられて
日本に持ち込まれて一枚800円でヤクザの下部組織に売るらしい
そしてその偽札はさらに下部組織に売られ
そこからまた、ていう風に下へ下へ
下に行くにしたがって偽札の値段は上がり五千円に近付いていく
偽札ていうのは案外扱いが難しくてそう簡単に使えるわけでもなかったりする
そもそも簡単に使えるものなら下部組織に押し付けたりしないのだ
なるほどヤクザの世界も楽じゃない
五千円札
そういえば前に大阪の難波の高島屋の前で五千円札を拾ったことがあった
あんな人通りの多いところで五千円札を拾うなんて何か意味があるんじゃないかと思い
その日ずっとその五千円札をどう使おうか考えたけど
結局いい使い道が思いつかなくて銀行に預けることにした
そして昨日、駅前に置いていた自転車が撤去されて保管所に取りに行ったら
撤去費用として五千円とられたのだった
嗚呼、五千円札
財布に入っていてもいつの間にか消えていく
一体どこへ消えていったのだろうか
五千円札…
しらす
話をしていてふとある言葉が頭に浮かんだ
はっきりと思い出せなくて
でも気になるから
昔の日記帳を開いてその言葉を探した
気にいった言葉があるとぼくは日記に書くようにしているのだ
誰 の言葉かていうのだけ覚えていて
ページを捲るとようやく見つかった
思い出した、新聞のコラムで見つけた言葉だった
日付は重要じゃないけど2010年の1月29日の日記だった
良くなるとかならないより
良くするしかないと説くべきなのだ
―――――――白洲次郎




