捨てればゴミ 使えば資源 -63ページ目

三途の川

私は 三途の川 を見たことがある。

あれは数年前。
近所のスーパー買い物に行くとに 献血車 が来ていた。
お店の入り口付近に陣取り、係の人が買い物客へ 献血の協力 を呼びかけている。
私も声を掛けられた。
買い物を済ませて献血することにし、その旨を係の人へ伝える。
久しぶりの献血だ。ドキドキした。

買い物を済ませ、荷物を車へ置いてから献血車へ向かう。
先ほどの係の人がテントの中へ案内してくれた。
その日の睡眠時間、薬など服用してないか、海外への渡航暦、などの質問に答え車の中へ。
中では、数人が横になり献血の真っ最中だ。長いすでは待っている人もいた。商売繁盛でなにより。
右手から検査採血をした。私の血液型はAB型だ。結果もそうでた。ちょっと安心した。
400mlお願いされたので承諾する。成分献血でも良かったのだが、あいにくブースが開いてなかった。

いよいよ献血だ。
リクライニングシートにうながされ、横になる。採血は左腕からだ。
左手をグーにし、駆血帯 を巻かれる。血管が浮き出てきた。いつ見ても惚れ惚れする。
はい、さしますよ~。
看護師さんが針を刺す。針が私の腕へと入っていく。痛みはほとんどない。いい腕だ。
チューブの中に血液が流れていった。

30秒ほどたっただろうか。異変が起きた。すごく気分が悪くなったのだ。
看護師さんにそのことを伝え、献血を中止してもらう。
看護師さんが、針を抜いてるのを見ながら目を閉じた。


あたり一面真っ白なもやだ。不思議な感覚だ。
私は歩いてるのか、立ち止まっているのかさえ分からない。

ずいぶん時間がたったような気がする。
視界が徐々に開けてきた。数メートル先にちょっとした山のようなものがあった。
山といっても大きなものではない。高さ5メートルぐらいのものだ。
なにかしら植物が生えているのか、表面は緑で覆われていた。

その山の上に、一人のおじいさんがいた。見た のではなく 感じた という表現が近い。
傘をかぶり、手には杖を持ち、白い衣装を身にまとっている。
私のほうをじっと見ていた。
あそこにいかなくては。
なぜかそう思った。その山に向かって歩き出した。

数歩進むと、小川のようなものが流れていた。幅1,5メートル、深さもそのくらいだろうか。
それを超えないと山にはたどり着けない。
小川と言うよりも コンクリートで作られている、農業用水の用水路 というほうが分かりやすいだろう。
飛び越えようと思えば飛び越えられる。しかし、反対側はちょっとした傾斜だった。
飛び越えて着地と同時に駆け上がらないと、小川に落ちてしまう。
山の上では、おじいさんが私をじっと見ていた。


ぺちぺちと、誰かが顔をたたいている。
・・・さん。  ・・・田中さん。
遠くで誰かが私を呼んでいるようだ。うっすらと目を開けた。
よく見えない。周囲がぼやけている。
田中さーん。聞こえますかー?
今度ははっきりと聞こえた。先ほどの看護師さんだった。

どうやら、献血中に貧血を起こしたようだ。
ズボンのベルトははずされ、チャックが下ろされていた。胸元のボタンもはずされている。
周囲がぼやけているのは眼鏡もはずされていたからだった。
針を抜いた後に意識を失ったらしい。

献血をして貧血 笑い話にもならない。
少し休んで、家に帰った。

あの時の小川は、きっと 三途の川 だったと、今でも信じている。
賽の河原は無かったし、渡し舟も無かったが。
もし、あの小川を飛び越えていたら、私は今ここにはいない と思う。
ひょい と飛び越えられそうなぐらいの距離で、あの世とこの世は隣り合っている。

たまに、あの時のおじいさんはだれだったのだろうか? と考える時がある。
こっちにおいで と迎えに着たのか、それとも こっちに来てはいけないよ と言っていたのだろうか?

まぁ、いいか。
いつか渡る時がくる。そのときに答えは分かるだろう。