俳句の文語文法 ㈢ | ロジカル現代文

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このブログは「現代文」をロジカルに教えるため、または学ぶための画期的な方法を提案しています。その鍵は「三要素」にあります。
このロジカルな三要素によって、現代文の学習や授業が論理的になり、確かな自信をもつことができます。ぜひマスターしてください。

■や・かな・けりの接続

       

 代表的な切れ字の接続について。まず「や」の場合は特に誤用されることはなさそうです。体言や活用語の終止形に付きます。

  春暁や湖のはたては火色帯ぶ    和生

  泰山木咲くや白磁のごとく割れ    和生

  露けしや手擦れの鍬と鎌遺し     和生

 ところで例句を探して主宰の句集を繰っていて、ちょっとひっかかる句がありました。

  わが歳にわが愕きや年の暮      和生

 この句では「愕き」という連用形に接続していて、もしや誤用ではと思いましたが、「愕き」は名詞でもありますので、これはあらぬ疑いでした。終止形だとこうなります。

  わが歳にわが愕くや年の暮

 「や」には詠嘆の他に、じつは「即時・同時」の意を表している場合があります。

  急坂を上るやむつと椎の花     千香子

 この「や」は一見詠嘆の切れ字のようにも感じてしまうところですが、よく読めば即時(~やいなや)を表していると分かります。

 

 

 つぎに「かな」の接続ですが、この切れ字は体言や活用語の連体形に付きます。

 『俳句』(二○一五年一○月号 角川書店)誌上で朝妻力氏の指摘する誤用例を二つつぎに挙げておきます。

  さくらしべ降る歳月の上にかな    時彦

  鏡餅わけても西の遙かかな      龍太

 初めの例では「に」という格助詞に接続していること。二つ目の場合は「遙か」という形容動詞の語幹に接続しているので間違いであるとの指摘でした。

 ところであまり指摘されませんが、まれにつぎのような「かな」の誤用が見られます。

  声高に異国人かな大旦     

 今例句を探し出せないので仮に作ってみましたが、どこが間違いかお分かりでしょうか。この句の「かな」も一見詠嘆のようですが、実際は「~かな?(だろうか)」という疑問・問いかけの意となっています。作者は詠嘆のつもりで使っているのでしょうが、無意識のうちに口語が忍び込んでいる例です。

 

 

 最後に「けり」の誤用は、形容詞に接続する場合に多く発生しています。

  紅白の牡丹の散るは寂しけり     仮作

 形容詞の連用形に接続しますが、連用形には形容詞の場合二通りがあります。「寂しく」と「寂しかり」です。「寂しかり」はカリ活用と言い助動詞に接続する場合にのみ用います。従って「寂しけり」は誤用で、正しくは「寂しかりけり」となります。

 ところが字余りになるので、「寂しかり」と省略した形でよしとする例が見られます。

  春の山屍をうめて空しかり       虚子

 または已然形に代える例もあります。これは係りの「こそ」を省略した結びの形です。

  穴掘つて腹ばふ兎涼しけれ      和生

 これらを誤用と断ずる説もありますが、ここは省略と解すべきではないでしょうか。