脳の臨界期と読譜力について | 音楽の窓から ~ディロルフ幸子ピアノ教室~

音楽の窓から ~ディロルフ幸子ピアノ教室~

長年ピアノを教えてきて、感じたことを綴っていきます

前回は、夏休みに、ニューヨークから日本に長期間一時帰国する日本人駐在員の子供たちの英語を例に、いくら子供たちが熱心に学んだことでもそれが臨界期前だと、ほんの3ヶ月ぐらいで忘れてしまうという話をしました。

ピアノの場合でも、臨界期前の子どもたちは、数ヶ月かけて練習し暗譜までした発表会の曲でも、その後全く弾かないでいると、早ければ1ヶ月で暗譜を忘れてしまうことはよくあります。暗譜で弾けなくなるだけでなく、楽譜を見てもスラスラとは弾けなくなってしまっていることに驚く親御さんもいらしゃいます。でもそれは別に不思議なことではないのです。臨界期前の柔軟性のある小さな子どもたちの脳は、受け入れるのも早ければ、失うのも簡単なのです。つまり、小さな子どもたちは、それだけ意欲旺盛に、なんでも受け入れられる柔らかな脳を持っているということです。ですから、大人たちは「もう忘れてしまったのね」などと思う必要はありません。その分、新しい楽譜から、様々な要素を次々と吸収しているのですから。

 

このように、脳の臨界期を理解していると、脳が柔らかくなんでも受け入れられる時期に、新しい曲にどんどん触れて、自分の力で読譜していく機会を多く持つことが、将来への大きな財産になることがわかります。したがって、ピアノを教える側は子どもの年齢に応じて、普段のレッスンにおける一曲にかける時間の長さを慎重に見極める必要があります。些細なことにこだわるあまりに、一曲に時間をかけすぎるのは、初見の力を伸ばせず、読譜力を落とすことにつながります。例えば、年齢的な指の弱さによる物理的な音の出し方に問題があったとしても、それはいずれ成長とともに自然に解決されていくことなので、たいしてこだわることではありません。ただし、どのような音が理想なのかを、先生が弾いて示してあげることは大切です。その際、どうすればそのような音が出せるのか、指の使い方や姿勢なども含めて説明してあげられればなお良いと思います。また、調性感の欠如による音の間違いなども、同じ曲に留まってこだわり続けるよりも、様々な曲に触れたり、子供達がよく知っている曲を歌ったりすることで、調性感を養ってあげた方が楽しく基礎が身につきます。

 

脳が柔らかい時期に、たくさんの曲にチャレンジさせることで、子供たちの音楽性には目に見えない財産が積み重ねられていくのです。そして、これは何もピアノに限ったことではなく、人と人とのコミュニケーションにも同じことが言えると考えています。