礒崎陽輔首相補佐官が安全保障関連法案について「法的安定性は関係ない」などと述べたことが波紋を呼んでいます。磯崎氏は本日3日の参院平和安全法制特別委員会に参考人招致され、謝罪に追い込まれました。
本誌ではかねてよりジャーナリストの青木理氏に磯崎氏の問題点を追及していただいてきました。ここでは2014年2月号に掲載した、「首相補佐官・礒崎陽輔という存在」を紹介したいと思います。(YN)
『月刊日本』2014年2月号
青木理「首相補佐官・礒崎陽輔という存在」より
礒崎陽輔参院議員(56)。まだ当選2回の新進議員だから一般にさほど知られていないが、安倍首相の信任がやけに厚いらしく、政権の中枢で極めて重要な役回りを演じている。
轟々たる批判を受けながら先ごろ強行成立させた特定秘密保護法は、政権内では礒崎氏が作成を主導した。
安倍首相が執心していた国家安全保障局(日本版NSC)が今年1月7日に発足すると、これを支える国家安全保障担当の首相補佐官にも就いた。今後、武器輸出三原則の緩和や集団的自衛権の行使容認といった重大な動きを政権内で中核的に担う。
そればかりではない。一昨年4月に公表された自民党の改憲草案も礒崎氏が作成の中心人物であり、改憲を含む国の根本的なグランドデザインを描く勢いなのである。
ところがこの礒崎氏、すこぶる評判が悪い。エバる。横柄。法律の基礎知識すらない──。改憲草案を作ったのにあんまりな言い草ではあるのだが、周辺から聞こえるのはそんな悪評ばかり。いったいどういうことか。
1957(昭和32)年に大分県で生まれた礒崎氏は、地元の名門・大分舞鶴高校を経て東大法学部に進学し、1982(昭和57)年にキャリア官僚として旧自治省入りした。
参院議員に初当選したのは第一次安倍政権期の2007(平成19)年7月。いわば自治官僚出身の「安倍チルドレン」とでもいうべき存在だが、自治省時代の先輩だった元官僚はこう言って顔をしかめる。
「彼、出向先の自治体なんかでは嫌われてね。とにかくエバるらしいんだよ。省内でも、いい評判はほとんど聞いたことなかったな」
こんな証言は枚挙にいとまがない。ベテラン政治記者は「妙に横柄だから自民党内でも煙たがられてる。いまは“安倍特需”で偉そうにしてるけど、政治経験もない」と評し、東大法学部の先輩で礒崎氏を知る法学者も辛辣だった。
「彼が改憲草案をつくったって聞いて耳を疑った。すこし前に彼と話をした時、立憲主義の何たるかさえ理解していなくて唖然としたからね」
俄には信じがたいほど散々な言われようだが、そんな礒崎氏とテレビやラジオで最近何度か討論した私の印象も似たようなものだった。
たとえば特定秘密保護法の国会審議中にあたる昨年11月29日に放送された「朝まで生テレビ」。同法に反対する私などのほか、秘密保護法制は必要との立場を取る識者も出演した。だが、今法案が問題だらけだったことに加え、ブレにブレる礒崎氏の発言に呆れたのか、番組中盤からほぼ全員が礒崎氏を追及するムードになった。
あたふたした礒崎氏の発言はさらにブレた。「アメリカが公開した文書で明らかになった情報は特定秘密から解除されるのか」と問われ、「公になった情報は秘密ではないから直ちに公開される」と言い切ったのである。
瞬間、大半の出演者の目が点になった。日本政府はこれまで、米公文書で明らかになった事実も頑として認めてこなかった。沖縄返還をめぐる密約しかり。核持ち込みの密約しかり。礒崎氏の言葉通りなら、これらの外交文書もすべて即時公開されねばならない。そうなれば素晴らしいと私などは思うが、秘密保護法制に理解のある識者からも「そんなことを言っていいんですかっ!」と突っ込まれ、以後の礒崎氏の狼狽ぶりは哀れなほどだった。(以下略)
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