巨大なゴミと化す新国立競技場 | 『月刊日本』編集部ブログ

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 2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けて、五輪担当相を専任ポストにする動きが進んでいます。早ければ5月中に新大臣が誕生する予定です。


 五輪担当相はこれまで下村博文・文科大臣が兼務していましたが、専任ポストを設けることで、大会準備や運営に向けた政府内の調整を円滑にする狙いがあると言われています。大臣候補には、自民党の遠藤利明・元文科副大臣の名前が挙がっています(『朝日新聞』4月24日付)。


 遠藤議員はラグビー経験者ということもあり、森喜朗・元総理と近い関係にあると言われています。森元総理は東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長を務めており、あるいは今回の人事にも何らかの影響を与えているのかもしれません。


 東京でオリンピックが開催されること自体は、必ずしも否定すべきことではないでしょう。しかし、現在オリンピックを一つの目的として進められている新国立競技場計画には多くの問題があります。安倍総理が東京オリンピックを成功させたいのであれば、今こそリーダーシップを発揮し、新国立競技場計画にストップをかけるべきです。


 ここでは弊誌4月号に掲載した編集部記事、「巨大なゴミと化す新国立競技場」を紹介したいと思います。(YN)



『月刊日本』4月号

「巨大なゴミと化す新国立競技場」より

法規制を無視したコンペ

 国立競技場の解体作業が進められている。新たに建てられる競技場は、延べ床面積は現競技場の5・6倍、高さは現在の2倍以上の70メートル、収容観客数は8万人という巨大建造物になる予定である。

 新国立競技場にあまり関心のない人も、一度はその奇抜なデザインを目にしたことがあるだろう。曰くUFO、ヘルメット、カブトガニ……。このデザインを考案したのは、イギリス在住のイラク人建築家、ザハ・ハディド氏である。ハディド氏のデザイン案(以下、ザハ案)は、JSC(独立行政法人日本スポーツ振興センター)主催の新国立競技場基本構想国際デザイン競技(以下、コンペ)で最優秀賞に選ばれた。JSCは文科省の外郭団体であり、国立競技場の所有・管理を行っている。

 しかし、このコンペには多くの問題があった。例えば、コンペの審査委員であった外国の著名な建築家2名が、二度行われた審査会議を二度とも欠席している。また、ザハ案は募集要項で条件とされていた敷地の指定範囲からはみ出しており、失格になってもおかしくないものだった。JSCは審査会議の詳細について明らかにしておらず、十分な審査が行われたのかどうか疑問が残る。

 とりわけ問題なのが、募集要項において新国立競技場の高さの上限が70メートルと規定されていたことである。国立競技場のある明治神宮周辺は都市計画法に基づき風致地区とされている。風致地区とは、都市の風致(風景や景観)を維持するために指定された地区のことである。明治神宮周辺は大正15年に初の風致地区に指定され、コンペ公募時には、建物の高さは原則として最高15メートルまでという厳しい規制がなされていた。つまり、JSCは法令に違反するデザイン案を募集していたのである。

 もっとも、東京都はその後、JSCの要請に基づき、周辺一帯を再開発等促進区とし、当該地域の高さ制限を75メートルまで緩和することを決定した。これにより、ザハ案は晴れて法令の範囲内のものとなった。

 しかし、これでは違法なコンペ案に法律が従わされたようなものだ。実際、都市計画の規制変更の妥当性を審議すべき東京都都市計画審議会では、議事録を見る限り、議論らしい議論は行われていない。穿った見方をするならば、明治神宮周辺を再開発するために、ザハ案が口実として利用された可能性もある。


なぜ斯くも巨大になったのか

 コンペの募集要項を作成したのは、JSCが設置した国立競技場将来構想有識者会議(以下、有識者会議)である。委員長には元文部次官の佐藤貞一氏が就き、委員には森喜朗元総理や竹田恆和JOC(日本オリンピック委員会)会長などが名を連ねる。

 この有識者会議の下には3つのWG(ワーキンググループ)が設置され、そこで実務作業が行われた。3つのWGとは建築WG、スポーツWG、文化WGであり、座長にはそれぞれ建築家の安藤忠雄氏、日本サッカー協会名誉会長の小倉純二氏、作曲家の都倉俊一氏が就いた。彼らは有識者会議の委員も兼任している。

 この中で中心的な役割を果たしたのが建築WGである。彼らがその他のWGの要望を取りまとめ、それらを検討した上で有識者会議の了承を得るという流れだった。

 新国立競技場がこれほど巨大になった原因の一つは、これらのWGにある。2014年1015日付の東京新聞が、情報公開請求により入手した建築WGの議事録について詳細な検証を行っている。それによると、スポーツWGの座長である小倉氏は「規模8万人、屋根を開閉式にする、椅子を可動式にする、この3点が最重要であるという結論になりました」と要請している。また、文化WGの座長である都倉氏も「開閉式の屋根はマスト(必須)です」と要請している。

 こうした要望を次々に聞き入れていけば、それだけ設備が増え、競技場が巨大化していくことは避けられない。実際、WGでは「全部単純に加算していくと、規模的に不可能になってしまいます」、「この際という形でいろいろな要求を出されています」という批判の声も聞かれた。

 最終的に彼らの要望数は128点にも及んだ。本来であれば、これらの要望を精査し、優先順位をつけて取捨選択を行うべきだったはずだ。ところが設計段階までに対応するということで、何一つカットされなかったのである。(以下略)







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