安倍政権は対ロ制裁を緩和せよ | 『月刊日本』編集部ブログ

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1月20日、岸田外務大臣は訪問先のブリュッセルで、「日ロの間においては、戦後70年間北方領土の問題があり、隣の国でありながら平和条約が結べていない状況が続いています。ウクライナにおいて起こっていることも力による現状変更ですが、北方領土の問題も、力による現状変更です。(ロシアとの)政治的な対話の中でも、ウクライナ問題においても、ロシアに建設的な平和的な対応をしっかり促していくことが重要なのではないか」と発言しました(朝日新聞1月20日付)。

 

ロシア外務省はこれに直ちに反応しました。彼らは北方領土について、「第2次大戦の結果として我が国に帰属した」と指摘し、岸田外務大臣の発言について「大戦の原因と結果について広く受け入れられている理解を修正しようとしている」、「日本は依然として歴史の教訓を学ぼうとしていないと断ぜざるを得ない」と批判しました(同1月22日付)。

 

これに対して、菅官房長官が22日午後の記者会見で、「岸田外相は歴史的事実を踏まえた認識を述べたもので、歴史の歪曲との批判は全く当たらない。受け入れることはできない」と反論し、北方領土について「日本のポツダム宣言受諾表明後にソ連軍によって占領されたということは歴史上の事実だ」と語りました(時事通信1月22日付)。

 

岸田外務大臣や菅官房長官の認識は決して間違っていません。当時のソ連が日ソ中立条約を一方的に破棄し、日本を侵略したのは事実です。

 

しかし、外交には相手がいます。真実を言えばそれがそのまま受け入れられるわけではありません。ロシアと交渉を通じて北方領土返還を進めている現状において、北方領土とクリミアを同列に語ることは百害あって一利なしです。

 

ロシアから見れば、日本政府の一連の発言は、日本がロシアとの関係改善をやめ、外交政策をアメリカ寄りに転換したように見えるでしょう。このままでは、それこそ軍事的に取り戻す以外、北方領土は永久に返ってこないことになってしまいかねません。

 

ここでは、弊誌1月号に掲載した、元外務省欧亜局長の東郷和彦氏と、一水会代表の木村三浩氏の対談を紹介したいと思います。(YN)

 

 

『月刊日本』1月号

「安倍政権は対ロ制裁を緩和せよ」より

日本の「コウモリ外交」は通用しない

―― 11月9日、安倍総理はAPECに出席するために訪問していた北京で、プーチン大統領と首脳会談を行いました。今回の会談をどのように評価していますか。

木村 私は、今回の会談は来年プーチン大統領に確実に来日してもらうための前哨戦だったと見ています。本来であれば今年中に来日が実現するはずでしたが、ウクライナ問題が起こったために来日が延期になってしまいました。今回の会談で、来年こそプーチン大統領に日本に来てもらうという継続協議の了解がとれたことは良かったと思います。

 また、この会談は国際社会に対して、日ロ両国は今後も関係を発展させる意思があるということを示すことにもなりました。実際、プーチン大統領は首脳会談の前日には、モスクワで開催された日ロ武道交流年の行事に参加しており、日本への関心を明確に打ち出しています。

 その一方で、安倍総理はプーチン大統領に、ウクライナ問題に対する西側の見解も伝えています。これは一種の国際協調路線でありますが、この問題についての日本の立場を話されたのだと思います。

 日ロ首脳会談が行われたのは、第二次安倍政権になってから今回で7回目。両首脳だけのやり取りも10分ないし20分あったということで、日ロ関係について率直に話し合う良い機会になったと思います。

東郷 おっしゃるように、日ロの対話を続けていきましょうという合意ができたことは、私も良いことだと思います。ですが、私の見るところ、日本政府が現在の政策を続けている限り、日ロ関係を大きく動かすことはできません。日本が全体的な政策転換をしなければ、たとえプーチンが来日しようと、何度首脳会談が行われようと、ロシアは動きません。現在の日本の置かれている状況はそれほど深刻なものだと思います。

 日本政府はこれまでG7の方針に従ってロシアに対して制裁を行ってきました。しかし、日本はロシアとの関係を重視しているため、G7の中で最も遅れて制裁に踏み切り、しかも実害のないものばかり行っています。ロシアはそうした日本の対応を見て、日本の立場を考慮しそれなりに理解を示してきました。

 しかし、ロシアはもはや日本に対して、その抑制の限界を迎えています。G7の方針に従いつつ、ロシアに対しても良い顔をするという「コウモリ外交」を続けてきたわけですから、彼らが不信感を募らせるのは無理もないことです。ロシアにとってウクライナ・クリミアの問題は、国家の存立を懸けた極めて深刻な問題です。彼らは日本に対して、その深刻さに見合った対応を求めています。

 私はいわゆる「クリミア併合」は、木村さんも『月刊日本』10月号で指摘されているように、クリミア住民の意志によって行われたことだと思っています。クリミアに展開した覆面部隊にロシア人が参加していたことなど、「クリミア併合」の過程に問題があったことは事実ですが、全体として見ればロシアに正統性があります。

 ウクライナ問題に関する議論としては、『フォーリン・アフェアーズ』9─10月号に掲載された、シカゴ大学のジョン・ミアシャイマー教授の「ウクライナ危機は西側の過ちから(Why the Ukraine Crisis Is the Wests Fault)」という論文が優れています。彼の議論のポイントは、大国は他の大国と隣接することを嫌がり、バッファー(緩衝)を求めるということです。これはロシアに限らず、アメリカや中国にも当てはまることです。ウクライナはロシアにとってバッファーなのです。ミアシャイマーは、なぜ西側はそれを理解せず、ウクライナをNATOに取り込もうとするのかと批判しています。

 私はウクライナ問題を解決するためには、冷戦時代のフィンランドの行動を参考にすべきだと考えています。当時、フィンランドは西側に留まりつつも、ソ連を刺激するような政策を行わないように細心の注意を払っていました。その意味で、フィンランドは大きな政策的犠牲を強いられたと言えますが、それはソ連と共存していくために必要なことでした。こうして冷戦を切り抜けたフィンランドは、今では見事に発展しています。

 安倍総理が今回の首脳会談でプーチン大統領と具体的にどのようなやり取りをしたのか、詳しいことはわかりません。しかし、もし安倍総理がウクライナの「フィンランド化」を提案していれば、それは素晴らしいことだと思います。逆に、G7の一員として西側の立場を伝えただけだとすれば、今回の首脳会談によって日ロ関係が動く可能性はありません。

 

安倍政権は対ロ制裁を緩和せよ

木村 政策転換をしなければならないというのは、私も同意できます。日本がロシアの立場に理解を示したり、対ロ関係を強化しようとすると、いつもG7から「ロシアの分断工作に乗るな」という圧力がかかります。しかし、日本は独自の立場で対ロ外交を進めていくべきです。

 私は、東郷さんのおっしゃるように日本がコウモリ外交をやめて一歩踏み出すためには、ロシアに対する経済制裁を部分的であれ緩和する必要があると考えています。大体、第一次制裁では渡航禁止リストの中にウクライナの前大統領であるヤヌコヴィッチが入っていたのですが、対ロシアの制裁なのにウクライナ人も入れていて、意味が分かりません。日本政府にやる気があれば、こんな意味がない制裁は撤回できるはずです。

 実際、1990年代の終わりにチェチェンで第2次紛争が起こった際、西側諸国がロシアを厳しく批判する中で、日本だけはそれに同調せず、ロシアに対する制裁を破棄しました。これは最近、元駐日ロシア大使のアレクサンドル・パノフ氏も指摘していることです。ロシア側はパノフ氏を通じて日本にメッセージを送ってきているのだと思います。日本は経済制裁をしないことを国是にすべきぐらいです。

 また、制裁には懲罰感情が含まれています。つまり、G7による制裁は、ロシアが悪いということを前提として行っています。それ故、日本が制裁に加わっている限り、たとえその制裁に効果がないとしても、日本の働きかけにロシアが応じることはないでしょう。

 逆に言えば、日本が制裁緩和に踏み切れば、ロシアも動くということです。日本政府は対ロ政策転換の第一歩として、制裁緩和に注力すべきです。最終的にウクライナのフィンランド化を達成するためにも、まずは日本独自の制裁緩和というものが必要になると思います。(以下略)






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