アベノミクスの破綻 | 『月刊日本』編集部ブログ

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8%の消費増税のダメージが明らかになりつつあるなかで、10%の再増税をどうするかという議論もはじまっています。そこで今月号では「アベノミクスの破綻」という特集を組み、安倍政権の経済政策について考えました。

 

『資本主義の終焉と歴史の危機』(集英社新書) がベストセラーとなって、注目を集めている日本大学教授の水野和夫氏は「安倍政権は成長主義と決別せよ!」と主張しています。

 

水野氏は「資本主義の死期が近づいている」と認識しています。資本主義は地球上を覆い尽くして「地理的・物的空間の限界」につ きあたりました。そこでアメリカは「電子・金融空間」を見出して資本主義の延命をこころみましたが、それも各国の証券取引所は株式の高速取引化をすすめ、 いまや百万分の一秒、一億分の一秒で取引できるかどうかという次元で競争していて、これも限界を迎えつつあります。つまり「資本主義の死期が近づいてい る」というのは、資本主義=資本の自己増殖が不可能になりつつある、ということです。

 

しかし「資本主義は資本の自己増殖ですが、どこまで増殖するのかという到達点を決めていない」ため、相変わらず成長主義のまま 一歩でも前進しよう、限界を突破しようとしています。「しかし、前進しようとすれば二倍の圧力が返ってきて、逆に後退してしまうのです。一番良い例がリー マン・ショックです。……原子力政策もそうです。」

 

水野氏はこの悪循環を断ち切るために「成長主義と決別せよ」と主張します。「成長を求めれば求めるほど、資本主義の持つ矛盾が露呈し、ダメージや犠牲も大きくなります。日本は、ゼロ成長でいくしかないのです。そう言うと、『あり得ない選択だ』などと批判を受けますが、20年間一人負けをしたにもかかわらず、なおも日本の一人当りのGDPは4万ドルで、20年間一人勝ちをしてきたドイツよりも高いのです。ゼロ成長社会、定常化社会は、人類の歴史の上で決して珍しい状態ではないのです」

 

水野氏は最終的に「日本は、この『定常状態』を維持するアドバンテージを持っているのです。世界で最も早く『ゼロ金利』『ゼロ 成長』『ゼロインフレ』に突入したからです」「日本は、資本主義から卒業しやすいポジションにあるのです。……日本は資本主義に代わる新たなシステム形成 を主導すべきなのです」と結論します。

 

安倍政権は成長戦略や原発再稼働につきすすんでいますが、資本主義の限界にはねかえされて「一歩進んで二歩下がる」結果に終わる危険性があります。しかし安倍政権は資本主義の限界にはねかえされるまでもなく、自分で自分の首を絞めているのが現状です。

 

産経新聞論説委員の田村秀男氏は「消費増税で再び奈落のデフレへ」と警鐘を鳴らしています。4-6月期の実質GDP第2次速報によると、家計消費は前年比でマイナス5・3%、年率換算でマイナス195%でした。これは戦後最大の落ち込みです。これからV字回復するという楽観論もありますが、田村氏は「私は日本経済は消費増税によってガクンと落ち込んだまま低迷する『L字型』になる危険性があると考えています。1997年の消費増税のときも、日本経済は回復せず『L字型』になり、デフレ局面に入っていきました。ましてや今回の消費増税は、デフレの真最中に行われたのです。1997年の時よりもダメージが大きくなることは間違いありません」と分析しています。

 

そのうえで田村氏は、安倍政権の経済政策は矛盾していると批判しています。「そもそもアベノミクスは『デフレ脱却』を目指して いましたが、消費増税はデフレに拍車をかけます。アベノミクスと矛盾する消費増税によって、日本経済はこのまま『L字型』になり、デフレ脱却どころか『30年デフレ』に突入してしまうのではないでしょうか。この上ない自殺行為です」「私はもともとアベノミクスを支持してきました。 異次元の金融緩和や大規模な財政出動は『物価上昇率を上回る賃金上昇』を促し、デフレ脱却に繋がると考えていたからです。しかし、その大前提は絶対に増税 をしないということです。それを破った安倍政権は、アベノミクスで思いっ切りアクセルを踏みながら、消費増税で思いっ切りブレーキを踏んでいる。こんな異 常な経済政策は世界中を見渡してもありませんよ。完全に破綻している。安倍政権は統合失調症になっていると思わざるを得ません」

 

それでは、どうしたらいいのか。田村氏は何よりもまず「10%への消費再増税を凍結しなければならない」と訴えています。これは「瀕死に追い込まれた日本経済に止めを刺す自殺行為です。……この悲惨な状況から日本経済を立て直すには、消費増税が間違いだったと認め、さらなる増税を断固凍結しなければなりません」

 

東京大学教授の安冨歩氏はアベノミクスを批判した上で、「安倍総理は『過ち』を認めよ」と迫っています。「アベノミクスの三本の矢は、すべて的外れです。経済は社会と不可分ですから、社会を考えずして経済を考えることはできません。このことを踏 まえて、私は、日本経済の本質的問題は『高齢化の進行』『中国の台頭』『コンピュータの出現』という三つの社会的変化だと考えています。だから経済政策 は、これらの本質的問題に対処するものでなければ無意味です。しかしアベノミクスはこの的を狙わず、あさっての方向に矢を放っています」

 

「あさっての方向に矢を放ってい」るとは、こういうこと です。「安倍総理は日本経済に対する診断を間違え、必然的に処方箋をも間違えているということです。現在やっていることは、生活習慣病(高齢化)の老人に 対して異次元のモルヒネ(金融緩和)と栄養剤(財政出動)をぶち込んで、気休め程度の筋トレ(成長戦略)をさせ、「体温(株価)が上がったから順調に回復 している。もう大丈夫だ」と言って、老人を生存環境の厳しい北極に放り出した(消費増税)ようなものですよ。異次元の副作用と過酷な環境のせいで老人の状 態が悪化するのは目に見えているではありませんか。下手をすれば頓死です」

 

 安倍政権は、なぜ的を外してしまうのでしょうか。「問 題は、安倍政権がこれらの問題に気付いていないということではなく、本当は気付いているけれども直視するのが怖いから、あえて見て見ぬ振りをしているとい うことなのです。『高齢化の進行』『中国の台頭』『コンピュータの出現』が与える課題は非常に重大ですから、そう簡単に立ち向かうことができません。国家 を自然消滅させる少子高齢化に抗って国家を存続させる方法は誰も知らないし、どうやって中国に対抗するかを考えれば考えるほど勝ち目がないことを思い知ら されるし、コンピュータの出現は日本人の勤勉性とマッチして高度経済成長を実現させてくれた栄光の工業生産の時代を終わらせてしまったという現実を突き付 けるからです。この厳しい現実を受け入れられないからこそ、『夢よ、もう一度』と言ってバブル経済や時代遅れの三点セットに縋り付き、目先の株価で一喜一 憂しているわけです。現実逃避以外の何物でもありません

 しかし、現実逃避は事態を悪化させるだけです。このまま現実逃避を続けて破滅するか、それとも現実を受け入れて対処するか、我々日本人に残された道は二つに一つです」

 

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