円安誘導も「非関税障壁」だ | 『月刊日本』編集部ブログ

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 TPPに参加すれば、農業や保険だけでなく、医療や食品、自動車の安全基準など、広範囲にわたって悪影響がもたらされる危険性があります。


 アメリカの狙いはTPPにより、関税障壁だけでなく非関税障壁をも撤廃させることです。たとえば、アメリカは、日本でアメリカ車が売れないのは、日本独特の安全基準などといった非関税障壁があるからだ、安全基準をアメリカ並みに下げろ、と要求しています。


 しかし、ジョセフ・スティグリッツ教授が述べているように、「米国産大型車が日本で売れないのは燃費が悪く、社会が望む商品を提供できていないのだから当然」です(3月22日付『朝日新聞デジタル』)。


 この「非関税障壁」は実にくせ者です。アメリカにとって都合の悪いものは全て非関税障壁にされかねません。アベノミクスによる量的緩和すらも非関税障壁とみなされる恐れがあります。実際、米通商代表部(USTR)のマランティス次席代表は、日本の為替介入による円安誘導を非関税障壁だと述べていました。


 ここでは、以前掲載した、元農林水産大臣・山田正彦氏と立教大学教授・郭洋春氏の対談の続きを紹介したいと思います。(YN)



『月刊日本』2012年3月号より

 

日本の食卓にBSE牛肉が並ぶ日

―― 仮に日本がTPPに参加することになった場合、遺伝子組み換え食品など、安全基準に極めて問題のある食品が日本に大量に流入してくると言われている。

山田 アメリカの小麦協会の会長に話をうかがった時、これまでは大豆やトウモロコシなど家畜が食べるものに対して遺伝子組み換えを行っていたが、今後は人間が食べる小麦についても遺伝子組み換えを行うと言っていた。

 また、オーストラリアやニュージーランドでは遺伝子組み換え食品について表示義務があるが、TPPによってこれの撤廃が求められている。現に、韓国では米韓FTAによって表示義務が撤廃されることになっている。

 それに加えて、アメリカは、日本がTPPの交渉へ参加したいのなら牛肉の輸入規制を緩和するように求めている。日本はこれまで、BSE感染例がほとんどない月齢20カ月以下の牛肉に限って輸入していたが、TPPに参加すればこの規制が緩和され、危険な牛肉が流入する恐れがある。

 さらに、遺伝子組み換え成長ホルモンを使って育てられた牛も流入してくるだろう。ヨーロッパでは、この成長ホルモンは発がん性があるとして禁止されている。

 そのため、私個人としては、トレーサビリティのないものは日本に入れるべきではないと考えている。トレーサビリティとは、物品の流通経路を生産段階から最終的な消費段階まで追跡できる制度である。これにより、食品の原料原産国などが全て明らかとなり、消費者が安全なものを選択することができるからだ。

 TPPにはラチェット条項が盛り込まれることが確実視されているため、一度牛肉の輸入を決定してしまえば、仮にBSEが発生したとしても輸入を禁止することができなくなる。BSEが特定された牛肉だけを排除すればよい、ということになってしまう。

山田 また、アメリカでは、収穫後のジャガイモに放射線を当てて芽が出ないようにしている。日本はそれを禁止しているが、これも非関税障壁であるとアメリカから撤廃を求められているため、今後こうしたジャガイモも日本に入ってくる可能性がある。

―― TPP賛成派は日本の農業が過度に保護されていると批判している。

山田 日本の農産物の平均関税はEUよりも低く、既に十分に開かれていると言える。米の関税は770%ほどだが、ミニマムアクセス米を75万トン輸入し、また商社間の自由な取引を10万トンほど認めているので、事実上は300%ほどの関税だ。

 しかし、この関税を撤廃するとなると、稲作は完全に崩壊する。畜産や砂糖なども同様だ。

 かつて木材の関税をゼロにした時に、日本の林業は壊滅的打撃を受けた。大きな50年物の檜一本と、だいこん一本の値段が一緒になった。それから毎年1兆円近いお金を林業再生のためにつぎ込んできたが、20年たった今でも山は荒れたままだ。

 そもそも、TPPに参加すると、GDPの押し上げが10年間で2兆7000億、1年間で2700億円と言われているが、関税を撤廃すると関税収入が年間で8000億円減少するのだ。このように、TPPによって失われるものは多いが、得るものなどほとんどない。

 


日本の自動車技術が狙われている

山田 問題は食の安全だけではない。TPPにおいて、アメリカは日本の自動車業界における非関税障壁を撤廃するように要求してきている。アメリカが撤廃を求めている非関税障壁について明らかにするよう経産省に問い詰めたところ、日本のユニークな技術要求や流通サービスのことであるという。

 要するに、日本の自動車産業界が誇る、ハイブリットや低燃費などの技術をアメリカにオープンにしろと言っているのだ。

 また、流通の分野ではディーラー制度が問題となっている。たとえば、トヨタのディーラーがトヨタ車だけを扱うのは、アメリカのフォードなどの自動車会社にとって差別的であるというのだ。TPPに参加すれば、トヨタのディーラーがアメリカ車も売らなければならなくなるだろう。

 さらに、日本の自動車の安全基準は、ミラーなどについて厳しく設定されているが、これもアメリカの基準まで下げるように求められている。

 アメリカ通商代表部のマランティス次席通商代表に至っては、昨年末に来日した際に、日本政府が為替介入して円安に誘導し輸出を伸ばそうとしたことについて、そうした為替介入が非関税障壁であるとまで述べているのだ。

 もともと、アメリカの自動車業界はTPPに反対している。アメリカ政府はTPP参加について彼らを説得するために、このように日本の自動車産業について多くの要求を行っているのである。

 日本の自動車業界は、アメリカから狙われているということをもっと自覚する必要がある。

 知的財産権にも大きな問題がある。個人がブログやSNSに書き込んだ内容について、たとえばアメリカの会社の商品が掲載されていれば、知的財産権を侵害しているとしてそのブログやSNSを閉鎖させることができる。

 また、色や匂い、音についても知的財産権が認められる。たとえば、ハーレーダビットソンのマフラー音にも知的財産権が認められている。

山田 医薬品や農薬の使用方法についても知的財産権が認められることになる。たとえば、日本の医者がアメリカの薬品を使う場合、アメリカの製薬会社に薬品代とは別に調合や使用方法に関する特許料を新たに払わなければならない。また、日本の農家がアメリカの開発した農薬を使用する場合も、特許料を払う必要があるのだ。

 薬品に関連する問題はさらにある。たとえば、アメリカの薬を日本政府が認可するのに3年かかったとする。その場合、すぐに認可されていたらその3年間で得たであろう利益について、知的財産権を侵害されたとして訴えることもできるのだ。

 このように、アメリカでは知的財産権の研究が進んでおり、自国の権益を拡大するために、今までは知的財産権と考えられていなかったものにまで知的財産権を適用しつつある。




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