中国のTPP参加を望むアメリカ | 『月刊日本』編集部ブログ

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 15日、安倍総理がTPP交渉参加を表明しました。安倍総理がTPP参加を決断した最大の理由は、日米関係を強化して中国に対抗するという点にあると思います。

 

 実際、安倍総理は会見で「共通の経済秩序の下に、こうした国々と経済的な相互依存関係を深めていくことは、我が国の安全保障にとっても、また、アジア・太平洋地域の安定にも大きく寄与することは間違いありません」と訴えています(「安倍内閣総理大臣記者会見」 )。

 

 TPPと安全保障を結びつける考え方は、決して間違ってはいません。経済は常に政治や軍事と結びついています。政経分離などというのは幻想に過ぎません。

 

 しかし、アメリカがTPPを安倍政権のように捉えているかどうかは、疑わしいと言わざるを得ません。たとえば、アメリカの外交政策に強い影響力を持っているジョセフ・ナイは、中国もTPPに参加させるべきだと主張しています。仮に中国がTPPに参加するとなれば、日米が協力して中国に対抗するという図式は崩れることになるでしょう。

 

 ここでは、弊誌3月号に掲載された地政学者・奥山真司氏のインタビュー記事を紹介したいと思います。(YN)

 


『月刊日本』3月号

「日本は多極化に耐えられるか」より



中国のTPP参加を望むアメリカ

―― 第二期オバマ政権がスタートした。オバマ政権は東アジアに対してどのような戦略をとってくると考えられるか。

奥山 オバマ政権の戦略を分析する上で、先日ニューヨーク・タイムズに掲載されたジョセフ・ナイの論文が参考になる。ナイは現在でもアメリカの外交政策に大きな影響力を持っている。

 ナイが提案している戦略を一言で言えば、「二重の封じ込め」だ。これは冷戦期にアメリカがソ連に対抗するために採用した戦略である。アメリカは戦後、ソ連を抑え込むために西ドイツの経済復興を必要としていた。しかし、ドイツの復興はヨーロッパ諸国ならびアメリカ自身にも脅威となる可能性があった。そこで、ドイツに米軍を駐留させ、さらには北大西洋条約を締結することで(当初ドイツは参加していない)、ドイツの封じ込めをも図ったのである。

 具体的にナイの論文を見ていこう。ナイは日中戦争を煽るような言説や、アメリカで台頭しつつある中国封じ込め論を批判しつつ、米中間の協力関係が重要だと述べている。そのために、太平洋における軍事演習に中国を参加させるべきだとし、さらには条件さえ整えば中国にもTPPに参加するよう主張している。その一方で、アジアは一枚岩ではないと述べ、日本やインド、ベトナムについて言及し、アジアにおけるパワーバランスがアメリカの戦略のカギを握っていると主張する。

 これは、ナイも官僚として参加したクリントン政権が採用していた戦略でもある。アメリカは当時、中国のWTOへの加盟を支援し、中国から人や物を受け入れる一方で、日米安保条約が戦後の東アジアの安定した秩序の基盤であることを再確認し、さらには中国に対抗するためにインドとの関係改善も進めていた。

  このように、アメリカは現在、中国との関係を深めつつ中国を抑え込もうとしている。そのため、日本と中国が軍事衝突を起こすといったようなことは出来るだけ回避したいと考えている。それゆえ、本音では日本の憲法改正も望んでいないだろう。

―― オバマ政権は日本にほとんど関心がないように見える。日本を抜きにして、米中で世界を仕切っていくということは考えられるか。

奥山 その可能性は常にある。アメリカはむしろ、その選択肢をチラつかせながら日本に譲歩を迫って来るだろう。

 彼らはまた、日本と中国を対立させて東アジアにおけるアメリカの支配を強化するという選択肢も持っている。実際、国防費削減という流れの中で、アメリカがサイバー部隊を5倍に増やそうとしているように、中国に対する警戒は怠っていない。このように選択肢を多く持っているというのも、アメリカが強国たる理由の一つと言えるだろう。





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